H I V 治 療 薬 の ニ ュ ー ス 

初めて使う薬は、必ずドラッグ・インフォメーションを読みましょう。用法、用量、副作用を
患者さんに伝えて下さい。1回もとばさないよう、そして心配な時の対処法も教えてあげて下さい。

● ゼリットカプセルR(15)(20)が発売 ●

■ 商品名はゼリット、略号はd4Tです。核酸系逆転写酵素阻害剤の1つであるサニルブジン(外国ではスタブジン)が1997年8月に新発売されました。開発はブリストル・マイヤーズ・スクイブ社で、国内販売は(株)ミドリ十字です。剤型は15mgと20mgのカプセルで、薬価はどちらも582.6円です。効能効果は(1)エイズ、(2)CD4数500/μl以下のHIV感染症です。

■ 用法・用量は体重60Kg以上では1回40mgを、60Kg未満では30mgを、1日に2回投与します。クレアチニンクリアランスが50ml/min以上では通常量、26-50では半量とし、25以下では半量を1日に1回と調節します。透析患者では終了後に投与します。30日処方が可能です。

■ 本剤は単独使用しないで下さい。AZT(レトロビル)との併用は禁忌です。通常は、ddI(ヴァイデックス)か、3TC(エピビル)と併用し、さらにプロテアーゼ阻害剤の1つを加えることもあります。ddC(ハイビッド)との併用は、有効性を示すデータが少ないのですが禁忌とは思えません。

■ 副作用は末梢神経障害が有名ですが、私たちは10例以上使って経験していません。使用前に必ずDI(ドラッグインフォーメーション)を読んで理解し、患者さんに教育して下さい。

● インビラーゼカプセルRが発売 ●

■ 一般名メシル酸サキナビル、略号はSQVです。HIVプロテアーゼ阻害剤では最も古いサキナビルが、1997年9月に日本ロシュ社から新発売となりました。効能効果は(1)エイズ、(2)CD4数500/μl以下のHIV感染症です。単剤での効果は低く、必ず他剤(逆転写酵素阻害剤1〜2剤)と併用します。1カプセル200mgの剤型で、薬価は188.7円です。成人では1回3カプセルを食後2時間以内に内服します。小児の用量は決まっていません。

■ 本剤の利点は、(1)副作用が少ないこと、(2)まだ許可されていませんがRTVとの併用効果が期待されていることです。硫酸インジナビル(IDV、クリキシバンR)やリトナビル(RTV)との交差耐性は当初少ないとされていましたが、最新の報告では交差耐性があることになってきました。

■ 本剤の欠点は、生体利用率(腸管からの吸収率に依存)が低いことで、有効血中濃度が保たれるか心配な点です。グレープフルーツジュースを一緒に飲むと吸収が高まるそうです。リファンピシンの血中濃度を下げますから、併用は禁忌です。

■ 一般的な副作用で最も多いのは消化器障害ですが、数例使用した私たちは経験していません。血友病の出血回数の増加、稀に糖尿病性ケトアシドーシス、溶血性貧血が報告されています。

■ 他のプロテアーゼ阻害剤と同様、チトクロームp450(CYP34A)によって代謝されるので競合され、他剤の血中濃度を上昇させたり下降させたりする可能性があります。テルフェナジン、アステミゾール、シサプリド、あるいは抗てんかん薬、ベンゾディアゼピン系の薬剤、アゾール系抗真菌剤などは注意が必要です。使用前に必ずDI(ドラッグインフォーメーション)を読んで患者さんに教育して下さい。

● デノシン・カプセル250が新発売 ●

■ 注射用デノシンR(一般名、ガンシクロビル)は、サイトメガロウイルス網膜炎の治療薬ですが、軽快後も治療を中断すると高度に再発が起こります。デノシンカプセルは250mgで1回4カプセル、毎食後服用です。食後の効果は注射用デノシンに少し劣ります。

■ 点滴よりも飲み薬である点が都合がよい点です。効能は、(1)エイズにおけるサイトメガロウイルス網膜炎の維持療法と、(2)CD4数が100/μl以下の進行したHIV感染症患者の発症予防です。

■ 1カプセルは565.1円で、1日分は6781.2円ですから、かなり使用は躊躇します。造血障害があり、無精子症になります。十分な注意と事前の説明が必要です。

● ノービアカプセルRがもうすぐ発売 ●

■ 一般名はリトナビル、略号はRTVです。国外ではアボット社が、国内ではダイナボット社が開発し、1997年10月に輸入が許可されました。12月15日頃には新発売になる予定です。薬価は決まっていませんが、1日分としては同等になると予想しています。HIVに対する効果は高いのですが、サキナビルの血中濃度を著明に増加させたり、インビラーゼと同様、他の薬剤との相互作用があることがわかっていますから、十分な注意が必要です。

● 市販後調査は全数対象で10年間 ●

■ 現在HIV感染症・エイズに関連する薬剤は、希少薬指定、迅速審査、拡大治験によって早期認可が行われています。日本での大人数での治験成績がありません。薬剤の安全性を確認するために市販後調査(PMS: Post-marketing Study)は、投与全例について10年間追跡することが義務づけられました。

■ 一人の患者さんに、複数の新薬が投与されていることが多く、会社毎に集計すると主治医は複数のケースカードを記入しなければなりません。このため厚生省は「HIV感染症治療薬の再審査期間における共同使用成績調査」という方法を開始します。一人の患者さんに1枚書けばいいのです。実施機関は(株)日本アルトマーク社(CRO)という調査会社です(Tel:0120-204393、Fax:0120-204292)。メーカー8社とCROの担当者が、各医療機関に出向き、調査に関する契約をすることになります。ご協力下さい。[End]



1998年4月 HIV感染症が障害認定に

■ HIV感染症の治療は長いので、医療費の問題があります。20才未満の血友病は小児慢性疾患(県市)によって、成人の場合は長期療養制度(健康保険)と凝固因子障害医療(国と自治体)によって医療費の自己負担額免除がなされています。一方で輸入血液製剤によらないHIV感染者の場合は医療費の自己負担があります。3剤治療でおよそ25万円かかる場合、国保3割の若者では高額医療の制度が使っても大変です。和解後の協議で、厚生省は福祉担当部局でHIV感染症を障害認定ができるよう審議中で、来年度の実施に向けて最終局面です。

■ 二つの制度があります。一つは、身体障害者福祉法の身体障害者手帳の発行があります。これで自治体の障害者医療費補助制度によって、在宅ケアが得られたり、低所得者は自己負担がなくなります。もう一つは厚生年金・国民年金の「その他の障害」で内部障害として新たに障害認定を行い、年金支給を行うものです。心配な病名は「免疫不全症」になる予定で、「エイズ」とか「HIV」という名称は出ません。制度は感染経路を問わないものですが、制度として医療と福祉の援助ができるなら、性感染の患者さんにとっては朗報でしょう。

■ アメリカは医療費が高く、保険をもっていない人が沢山います。連邦のライアン・ホワイト法(1991年)制定にともない、エイズ治療薬補助制度(ADAP)が発足しました。適用範囲は州によって違いますが、年収が少ない(例、4万ドル=500万円)エイズ患者の治療代が無料になります。HIV陽性とわかっても、医療が受けられなければ本人にとって意味がありません。この制度はアメリカの新しい感染を減らし、治療によって死亡数を減らすのに、大変有意義だったと思われます。障害者に優しい国であって欲しいですね。