中四国エイズセンター
HIV/AIDS(エイズ)のこと

エイズ関連用語集 ver.9

抗HIV薬 Anti HIV drug; antiretroviral drug

【概要】エイズウイルス(HIV)に対して効果のある薬。HIVの増殖のステップのどこかを邪魔する。HIVを持っているけど増えない細胞は、ウイルスの印が外から見えないので、排除できない。しかし寿命が来たら死滅するはず。ところが寿命が長い細胞がいて、計算上では最後の細胞が死ぬまで60年かかるという。このように治療は一生涯続くと現在は考えられている。

【種類】ウイルスの増殖の理論的なステップには、(1)細胞への接着、(2)膜融合に引き続く細胞内侵入と脱殻、(3)逆転写、(4)核内への移動、(5)DNAへの組み込み、(6)転写と、(7)蛋白合成、(8)糖鎖修飾・成熟、(9) プロテアーゼによる蛋白分解、(10)分泌などがある。現在、実現しているのは接着阻害融合の阻害逆転写酵素阻害インテグラーゼ阻害カプシド阻害プロテアーゼ阻害である。長期作用型製剤、注射薬などもある。今後メッセンジャーRNAの阻害の他、遺伝子編集と細胞治療、ワクチンなども考えられるかも知れない。

高額療養費 Reimbursement of Expensive medical charge

【概要】1ヶ月間に支払った医療費が一定の金額を超えた場合に、その超えた金額が戻ってくる制度である。健康保険に加入している方が対象。一般患者は「高額療養費」、75才以上は「高額医療費」という。上限額は所得や年齢、世帯構成で違う。国民健康保険の場合は市区町村役場、政府管掌保険は社会保険事務所、健康保険組合と共済組合はそれぞれの加入している組合へ、医療機関の領収証と申請書類を提出する。自分で申請するのが原則。2年を過ぎると償還の権利を失う。返金されるまで通常2〜3ヶ月かかる。医療費が多くかかったと思ったら病院の医療ソーシャルワーカーに相談するのがよい。

高額療養費貸付 Expensive medical charge; Loan of –

【概要】1ヶ月間に支払う医療費が一定額を超えた場合、請求額を支払う前であれば、高額療養費分の医療費を無利子で貸し付ける制度。国民健康保険の場合は、市町村役場または社会福祉協議会、政府管掌保険の場合は社会保険事務所・社会保険協会、組合健康保険または共済保険の場合はそれぞれの組合で手続きを行う。貸付の金額は、各保険によって異なる。

口腔毛状白板症 Oral hairy leukoplakia

【概要】主に舌の辺縁に、太い毛あるいはヒダのような白い突起が何条もできるもの。免疫能が低下し始めて発生し、16ヶ月以内にエイズ発病をする確率は48%、31ヶ月では83%という報告がある。EBウイルス(EBV)が関連している。男性が女性より多く喫煙者に多い。本疾患自体は悪性ではない。

抗原 Antigen

【概要】免疫系を刺激して抗体を作らせる物質のこと。抗原物質は脂肪分や糖分がついた蛋白質であることが多い。細菌ウイルスが体内に侵入したとき、細菌やウイルスの構成成分は宿主が持っていない抗原となる。免疫系細胞が認識する抗原の一部をエピトープという。抗原が犯人とすればエピトープは顔写真のようなもの。

抗原提示細胞 APC: Antigen presenting cell

【概要】マクロファージ樹状細胞などのこと。これらの細胞は病原体を食べて分解し、その構成分の一部を自分の細胞表面にHLA抗原とくっつけて提示する。まるで「これが犯人の特徴だ」と病原体の指名手配写真を見せているようである。他の免疫系は、この報告を知ってピッタリあう抗体(逮捕状)を作ったりする。

合剤 combination drug

【概要】別名、配合剤。異なる成分の薬物を2種類以上混ぜ合わせて1つの薬にしたもの。複数の成分を組み合わせることにより、一つの成分によってできた薬(単剤といわれる)よりも、高い効果が期待できたり、安全性を高めたりすることができる。また、服用する薬の数を減らすことができる。HIV治療では併用効果が認められた組み合わせが多数確認され、新しい商品名で発売された。同じ会社の製品は合剤にすることは比較的簡単である。

交差耐性 Cross resistance

【概要】交叉耐性とも書く。ある薬に対し耐性をもった場合、構造が似た同じ系統の薬にも耐性になってしまうこと。抗ウイルス剤でも、抗生物質でも、抗癌剤でも同じことがおこる。併用療法は交差耐性がない薬を組み合わせる。抗HIV薬では核酸系逆転写酵素阻害薬非核酸系逆転写酵素阻害薬プロテアーゼ阻害薬の仲間同士で発生しやすい組み合わせがある。初回治療前に薬剤耐性検査を行って耐性がないか調べることが必要。HIVHBVの間でも薬の交叉耐性がある。HIV感染者と知らずにエンテカビル(バラクルード®錠)で治療されたB型肝炎患者の場合、重(複)感染に気がついたときにはHIVに耐性変異が発生してしまうことがある。

抗酸菌 Mycobacteria

【概要】マイコバクテリア属の日本名。抗酸菌は酸に抵抗性がある(=胃液でやられない)。人工的な培地に生えてくる抗酸菌は90種類以上あり、大きく結核菌と癩菌と非結核性抗酸菌(NTM)の3種類に分けられる。免疫系細胞の監視で排除されやすく、感染が成立するにはかなりの菌量が侵入するか、免疫能が低下しているという条件がある。

抗真菌薬 Antimycotic agent

【概要】真菌(かびの仲間)感染症の治療薬。皮膚感染症以外の深在性真菌症の治療薬は次の通り。ポリエン系のアムホテリシンBは注射、錠剤、シロップ(商品名: ファンギゾン®シロップアムビゾーム®点滴静注用)。イミダゾール系ではフルコナゾールは注射とカプセル(商品名: ジフルカン®カプセル、ジフルカン®静注用)。ホスフルコナゾールはフルコナゾールのプロドラッグで注射薬(商品名: プロジフ®静注液)。髄膜炎など深在性真菌症にも適応。ミコナゾールは腟坐薬と注射とゲル剤(商品名: フロリード)。イトラコナゾールは内服薬のみ(商品名: イトリゾール®)。クロトリマゾールはトローチ、クリーム、ゲル、液、腟錠(商品名: エンペシド®トローチ)。ボリコナゾールはアスペルギルス属にも有効(商品名: ブイフェンド®錠、ブイフェンド®静注用)。キャンディン系ではミカファンギンナトリウムは注射剤(商品名: ファンガード®点滴用)。フルコナゾール耐性カンジダやアスペルギルス属にも有効。代謝拮抗剤であるフルシトシン(5FC、商品名:アルシトシン、アンコチル、スコール)は錠剤で、単独では耐性を作りやすく、アムホテリシンBとの併用効果がある。

抗生物質 Antibiotic, Antimicrobial

【概要】抗菌薬と同じ。細菌が増殖するメカニズムのどこかを抑えることにより、増殖を止めたり(=静菌)殺したり(=殺菌)する物質。色々な作用機序を持つ多様な種類がある。セフェム系、ペニシリン系、キノロン系、マクロライド系、テトラサイクリン系、アミノグリコシド系......など。サルファ剤は抗生物質とは言わない。真菌に対するものは抗真菌薬結核の薬は抗結核薬、ウイルスの薬は抗ウイルス剤という。

酵素 Enzyme

【概要】ある物質を他の物質に変化させるときに触媒としてはたらく蛋白質。変化する前の原料を基質という。酵素反応は「くっつける=合成」と、「切る=分解」がある。HIVは、逆転写酵素蛋白分解酵素(プロテアーゼ)、遺伝子切断/統合酵素(インテグラーゼ)などを持っている。

抗体 Antibody

【概要】抗原にぴったり結合するように作られた免疫性の蛋白質で、免疫グロブリンという物質。血液や分泌液に出てくる。ヘルパーT細胞の調節のもとにB細胞が分化した形質細胞が作る。異物が入ってきたとき、「これは異物」とくっつく。警察に例えたら逮捕状のようなもの。くっついた異物を除去するものを「中和抗体」と呼び、くっつくだけで除去できないものを「非中和抗体」と呼ぶ。血中に抗体がみつかれば、過去にその抗原が入ってきたことの証明になる。また人工的に抗体を作らせれば、抗原を免疫学的測定法ではかる検査キットを作ることもできる。がん細胞にくっつく、サイトカインにくっつく、免疫チェックポイントにくっつく、など治療薬としての利用が増えている。

好中球 Neutrophils

【概要】白血球の1種。染色すると中性の領域で細胞の中の顆粒が染まることでついた名前。白血球の中で通常一番多い。血中の基準値は1700〜5000/μL。産生場所は骨髄の中。G-CSFという造血ホルモンの働きで約2週間かかって末梢血管内に出てくる。細菌感染症で増加する。

後天性免疫不全症候群

エイズ』を参照。

肛門癌 Anal cancer

【概要】肛門癌は、皮膚と直腸粘膜の境目に発生しやすい。直腸癌の組織は腺癌がほとんどだが、肛門癌は扁平上皮癌である。性行為で感染するヒトパピローマウイルス(主にHPV16,18型)が原因である。同性間の性行為によるHIV感染男性での発生率は非感染者に比べて50倍以上高く、厚労省研究班(照屋班)によると、非エイズ関連悪性腫瘍では肺癌、胃癌、大腸癌に続いて4位であった。症状は排便時の出血、痛み、肛門周囲のかゆみ。25%は無症状。診断は組織の生検による。腫瘍の大きさ、リンパ節転移、遠隔転移の有無で病期を分類している。治療は、病期によって放射線療法、抗癌剤、手術を組み合わせる。手術では肛門括約筋に及ぶので人工肛門造設術が必要になることが多い。肛門性交を行う人に子宮頸がんと同じような定期検査を行う研究が始まっている。男性にもHPVワクチン接種を認可した国がある。

肛門性交 Anal intercourse; anal sex

【概念】肛門を使った性行為。“アナル”ともいう。ペニスあるいは代用物を肛門に挿入して性交を行う。糞便の前処理が必要。同性間でも異性間でもある。受ける側をreceptive(ネコ、ウケ:bottom)といい、挿入側をinsertive(タチ:top)ということもある。直腸は腟に比較して粘膜が薄く、静脈がたくさんあるので病原体などが血液内へ流れ込みやすい。豊富なリンパ組織は同時にHIVの標的であり都合がよい。HIVの感染に関しては肛門性交そのものが危険と言うよりも、“防護策が行われない性行為”が危険と考えるべきである。

コカイン Cocaine

【概要】別名はクラック。麻薬の一種で、葉を燃やして煙を吸入する。最初は陽気になり、元気に満ちあふれた気分になり、頭脳明晰、自我意識が高まる。それを過ぎると逆に不穏、不安、妄想、手の震えが起こる。

コクシジオイデス症 Coccidiomycosis: Valley fever

【概要】エイズ指標疾患の一つ。日本ではみられず、アメリカの乾燥地帯でみられる。真菌(=カビ)の一種が原因。HIV感染者で肺、頚部もしくは肺門リンパ節以外に又はそれらの部位に加えて全身に播種したコクシジオイデス症はエイズと定義される。症状は発熱、全身倦怠感、体重減少。平均生存期間は6〜8ケ月。

【診断】患部又はその浸出液においてコクシジオイデスを検出。

【治療】アムホテリシンBの点滴。

骨髄 Bone marrow

【概要】骨の中の海綿状の空間。血液細胞の製造工場。造血幹細胞分裂増殖し、分化成熟して赤血球・白血球・血小板になっていく。エイズでは悪性リンパ腫やいくつかの感染症が骨髄をおかすことがある。抗ウイルス剤の有害作用として貧血や白血球減少症(好中球減少症)が発生することがある。

骨密度 BMD: Bone mineral density

【概要】HIV感染者は年齢に比較して脆弱性骨折例が多いことが報告された。またテノホビル(TFV)の有害作用として注目されている。骨密度は骨の硬さのことで骨塩量により示される。標準的な測定法はデキサ法(DEXA:二重エネルギーX線吸収測定法)により骨折が多い腰椎、大腿骨頚部を検査する。測定値はCa量(mg/cm2)、判定は若年成人比較(YAM%)や偏差(T-score)、あるいは同年齢比較(%)や偏差(Z-score)で示す。正常はYAM80%以上、骨粗鬆症はYAM70%未満、骨減少症はその間である。

コレセプター Coreceptor

【概要】共同受容体HIVが細胞に感染する時、細胞膜のCD4だけでは接着するだけでは細胞に侵入できない。同時にCCR5CXCR4というケモカイン受容体が必要である。これらを感染のためのコレセプターと呼んでいる。CCR5には遺伝的な多型がある。アミノ酸が32個欠けるとHIVが侵入できない。「生まれつきHIVに感染しにくい人がいる」ことから発見された。アジア人ではこの変異は少ない。

コンドーム Condom

【概要】ペニスに被せる帽子。女性用は膣に挿入する。昔は動物の腸で梅毒など性病予防用に開発され、避妊具として利用された。現在は伸縮性にすぐれたラテックス(合成ゴム)製、薄くて丈夫なポリウレタン製がある。妊娠を防ぐにはピルの方が有効だが、性感染症の予防はコンドームが有効である。HIV感染の危険を少なくとも100分の1以下にする。

コンプライアンス Compliance

【概要】エイズ業界では「服薬コンプライアンス」のこと。コンプライアンスとは従順。医療者が決めた治療法に、患者が従うこと。服薬行動では「きちんと決められた通りに薬を飲む」という受動的な態度。反対語は「ノンコンプライアンス」。慢性疾患の治療の上では患者の積極的な役割を重視し、「コンプライアンスからアドヒアランスへ」がキャッチフレーズになっている。コンプライアンスを決定する要因は、医療者の説明能力、患者の理解力、服薬の妨げとなる障害(錠剤やカプセルがつかめない、うまく飲みこめない)などである。

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