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気管支鏡 Bronchoscopy
【概要】気管支は空気が通る管。木の枝のように別れていて、先には肺胞という微小な風船が木の葉のようについている。気管支鏡(=気管支ファイバースコープ)の太さは6mmくらいで、トンネルを通っていくように、気管支の内部を観察できる。ある太さ以上には進めないが、先端からワイヤーを延ばして病変に近づいて生検したり、先端から水を吹きだして気管支や肺胞を洗い、その液体を回収して調べる。エイズではニューモシスチス肺炎やカポジ肉腫の診断に使われる。
危険ドラッグ Party drug, Recreational drug, Club drug
希少疾病用医薬品 Orphan drug
【概要】オーファンドラッグともいう。使用する患者数が余りに少ないと、治験や薬剤管理に要する費用が、市販して得る収入を上回るので製薬会社は医薬品開発の意欲がわかない。このように開発が諦められていた薬を、厚生労働省が希少疾病用医薬品として指定し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が開発を援助する制度ができた。しかし指定されない真の“希少薬”はもっとたくさんあり、「エイズ治療薬研究班」、「熱帯病薬研究班」が提供するものもある。
偽薬 Placebo
【概要】本来の薬効がない偽の薬。偽薬対照試験とは、ある薬剤の効果を調べるために、偽薬と本物の薬を患者にわからないように割り付けて調べる方法。なかには偽薬でも有害作用や、逆に良い効果が経験されることがあり、これを偽薬効果という。偽薬と比べて統計解析で意味のある差がでたら、効果があったと判定する。
逆転写酵素 Reverse Transcriptase
逆転写酵素阻害薬 RTI: Reverse Transcriptase Inhibitor
【概要】核酸系のAZT、ddI、3TC(抗HIV薬)、d4T、FTC、TFV、非核酸系のNVP、EFV、ETR、RPV、DORなど、HIVの逆転写酵素の働きを阻害する薬の総称。逆転写酵素はウイルスに特有な酵素で人間は持っていない。逆転写酵素阻害薬はこの酵素の働きを邪魔する薬であり、ウイルス遺伝子からDNAへのコピーができなくさせる。逆転写酵素阻害薬は2種類に分けられる。核酸系(ヌクレオシド系)逆転写酵素阻害薬は核酸アナログというDNAの部品のうち、正規の部品ではない“まがいもの”である。このため正しいHIVのDNAができなくなる。非核酸系(非ヌクレオシド系)逆転写酵素阻害薬は逆転写酵素に結合して酵素の化学構造を変化させて酵素の働きを失わせる。
救済療法 Salvage therapy
【概要】治療に対する反応は患者によってかなり異なる。臨床試験をかさねて十分な証拠を得た後に、第一選択すべき治療法が確立し、標準的な治療法になる。しかしこれを選ぶことができない場合、初回治療が失敗した場合には、第二選択などの代替療法が選ばれる。最後に十分な証拠がないけれど、救済のためには挑戦する価値があると思われる治療法が救済療法である。
急性HIV感染症 Acute HIV infection, primary HIV infection, Recent HIV infection
【概要】HIVに感染した時から2〜6週間あたりの時期を言う。50〜90%の症例で発熱、頭痛、倦怠感、リンパ節腫大、皮疹などの急性症状がみられるが、HIV抗体検査では確定できず、HIV(p24) 抗原あるいはHIV RNA検査で診断する。このあと無症候期に移行する。100万コピー/mL以上とウイルス量が最も多く、水平感染の原因になりやすいことが指摘されている。感染した粘膜下の樹状細胞が近くにあるリンパ節に到着し、多数の樹状細胞やCD4細胞でHIVの爆発的な増殖が起こり、血流に乗って全身に撒布される。侵入からおよそ数日から4週間後であり、まだ十分な抗体は産生されない。急性感染期を過ぎると抗体が産生される。早い例では10-14日後、平均では3週間、8週間後の無症候期にはほぼ全例で抗体が検出できる。
【症状・徴候の頻度】発熱>80-90%、倦怠感>70-90%、発疹50-60%、筋肉痛と関節痛50-70%、咽頭炎50-70%、リンパ節腫脹40-70%、悪心、嘔吐、下痢30-60%、寝汗50%、血小板減少症45%、白血球減少症40%、体重減少24%、無菌性髄膜炎24%、食欲不振21%、肝機能異常21%、口腔カンジダ症17%、口腔潰瘍10-20%、陰部潰瘍5-15%、咳・上気道感染症状非常に稀。
【診断】丁寧な病歴の聞き取りで本症を「疑うこと」が一番である。HIV抗体のスクリーニング検査では、陰性から弱い陽性→強い陽性と推移するので1回だけではわからない。最も感度、特異度とも高いのはHIV RNAで、早い時期に高値となる。外注検査では数日を要するので、多くの施設では院内で実施する抗原抗体検査の方が先に結果がわかる。
【治療】多くの専門家は条件が整えば急性期でも治療開始を推奨している。急性HIV感染者の中には、強い全身症状とCD4細胞数の激減で免疫不全が進み、慢性期を経ずにエイズ発病してしまう例が稀にあるため。またCD4数が500/μL以上で治療を開始した方が、遅らせるより予後が良いことがあきらかとなっている。急性期にウイルス量が最も多く、水平感染の原因になりやすいので、ウイルス量を抑制することで性的パートナーへの感染を防ぐことにもなる。いったん始めた治療は継続することになるので、HIV感染者は人生の中で長い期間を治療に費やさなければならない。
急性脂肪肝 Hepatic steatosis, acute-
吸入療法 Aerosolized pentamidine
【概要】元々喘息で行われていた治療法。エイズでは、ニューモシスチス肺炎の予防あるいは治療としてペンタミジン(商品名ベナンバックス®注用)という液状の薬剤を、超音波ネブライザーで霧状に変え吸入させることがある。気道での薬の濃度をあげながら、体内にはあまり吸収されないので全身性の有害反応は少ない。ネブライザーの性能によって霧状の水滴の大きさが違い、末端まで届かない可能性もある。また座って吸入すると肺の上部に薬が行き届きにくい。
供血者検査 Blood donor testing
凝固因子 Coagulation factors
偽陽性 Pseudo-positiveness
共同受容体 Co-receptor
『コレセプター』を参照。
共用 Sharing
挙児希望 child-bearing
挙児希望への生殖補助医療 child-bearing, assisted reproductive technology
拠点病院 AIDS core hospital
【概要】平成5年7月28日の厚生省保健医療局長の通知文の中に、「住民に身近な病院において一般的な診療を行い、地域の拠点 病院において重症患者に対する総合的、専門的医療を提供」という文言がある。自治体を介して国の指定を受けている。拠点病院の要件としては、(1)総合的なエイズ診療、(2)医療機器と個室の整備、(3)カウンセリング体制の整備、(4)地域の医療機関との連携、(5)院内感染防止体制、(6)職員の教育、健康管理、などがあげられている。エイズに関する医療体制を整備するため、都道府県は拠点病院に対して積極的に支援を行うことになっている。しかし経験される患者数の違いで、大都市と地方、病院と病院のレベルには差があり、均一で良質な医療の提供とはなっていない。診療スタッフや心理カウンセラー、医療ソーシャルワーカーの育成と確保が重要である。