中四国エイズセンター
HIV/AIDS(エイズ)のこと

エイズ関連用語集 ver.9

偽陰性 Pseudo-negativeness

【概要】本当は陽性なのに、ある検査方法では陰性と判定してしまうこと。感度が鈍い検査でおこりがちである。HIV抗体検査で、本当はウイルスがいるのに誤って陰性と言う判定をしてしまう場合。その検査法ではひっかからない程、抗体の量が少ない場合が考えられ、多くの場合ウインドウ期の測定である。スクリーニング検査では偽陰性を避けるため、判定の境界値を低く設定している。かえって偽陽性が増える可能性がある。

気管支鏡 Bronchoscopy

【概要】気管支は空気が通る管。木の枝のように別れていて、先には肺胞という微小な風船が木の葉のようについている。気管支鏡(=気管支ファイバースコープ)の太さは6mmくらいで、トンネルを通っていくように、気管支の内部を観察できる。ある太さ以上には進めないが、先端からワイヤーを延ばして病変に近づいて生検したり、先端から水を吹きだして気管支や肺胞を洗い、その液体を回収して調べる。エイズではニューモシスチス肺炎カポジ肉腫の診断に使われる。

危険ドラッグ Party drug, Recreational drug, Club drug

【概要】多幸感、快感等を高めると称して販売されている製品を指し、口から摂取するタイプや鼻腔から吸入するタイプなど様々な種類がある。現在、厚労省は“違法薬物”に指定している。犯罪に悪用されたり、乱用による死亡事故を招くこともある。また、薬物使用しながらの性行為はHIV感染の危険性を高めると考えられる。マジックマッシュルーム、MDMA(エクスタシー)、GHB、5Meo-DIPT(ゴメオ)、ラッシュ、など。麻薬指定を免れている化合物や新規のものも出てきて規制が遅れやすい。依存性があり脳に不可逆的障害を残すものもある。

希少疾病用医薬品 Orphan drug

【概要】オーファンドラッグともいう。使用する患者数が余りに少ないと、治験や薬剤管理に要する費用が、市販して得る収入を上回るので製薬会社は医薬品開発の意欲がわかない。このように開発が諦められていた薬を、厚生労働省が希少疾病用医薬品として指定し、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)が開発を援助する制度ができた。しかし指定されない真の“希少薬”はもっとたくさんあり、「エイズ治療薬研究班」、「熱帯病薬研究班」が提供するものもある。

偽薬 Placebo

【概要】本来の薬効がない偽の薬。偽薬対照試験とは、ある薬剤の効果を調べるために、偽薬と本物の薬を患者にわからないように割り付けて調べる方法。なかには偽薬でも有害作用や、逆に良い効果が経験されることがあり、これを偽薬効果という。偽薬と比べて統計解析で意味のある差がでたら、効果があったと判定する。

逆転写酵素 Reverse Transcriptase

【概要】細胞増殖時に人間の細胞ではDNA(デオキシリボ核酸)の情報が、RNA(リボ核酸)に伝えられるのが本来の流れであり、これを転写という。ところがHIVの遺伝子はRNAなので、そのままでは人間の遺伝子に入り込むことができない。HIVを含むレトロウイウスの仲間は、逆転写酵素を細胞内に一緒にもちこみ、この酵素によってRNAからDNAへの逆転写を行い、ウイルスの遺伝情報を持ったDNAを作成する。この酵素を抑える薬は逆転写酵素阻害薬に分類される治療薬になる。

逆転写酵素阻害薬 RTI: Reverse Transcriptase Inhibitor

【概要】核酸系のAZTddI3TC(抗HIV薬)d4TFTCTFV、非核酸系のNVPEFVETRRPVDORなど、HIV逆転写酵素の働きを阻害する薬の総称。逆転写酵素はウイルスに特有な酵素で人間は持っていない。逆転写酵素阻害薬はこの酵素の働きを邪魔する薬であり、ウイルス遺伝子からDNAへのコピーができなくさせる。逆転写酵素阻害薬は2種類に分けられる。核酸系(ヌクレオシド系)逆転写酵素阻害薬は核酸アナログというDNAの部品のうち、正規の部品ではない“まがいもの”である。このため正しいHIVのDNAができなくなる。非核酸系(非ヌクレオシド系)逆転写酵素阻害薬は逆転写酵素に結合して酵素の化学構造を変化させて酵素の働きを失わせる。

救済療法 Salvage therapy

【概要】治療に対する反応は患者によってかなり異なる。臨床試験をかさねて十分な証拠を得た後に、第一選択すべき治療法が確立し、標準的な治療法になる。しかしこれを選ぶことができない場合、初回治療が失敗した場合には、第二選択などの代替療法が選ばれる。最後に十分な証拠がないけれど、救済のためには挑戦する価値があると思われる治療法が救済療法である。

急性HIV感染症 Acute HIV infection, primary HIV infection, Recent HIV infection

【概要】HIV感染した時から2〜6週間あたりの時期を言う。50〜90%の症例で発熱、頭痛、倦怠感、リンパ節腫大、皮疹などの急性症状がみられるが、HIV抗体検査では確定できず、HIV(p24) 抗原あるいはHIV RNA検査で診断する。このあと無症候期に移行する。100万コピー/mL以上とウイルス量が最も多く、水平感染の原因になりやすいことが指摘されている。感染した粘膜下の樹状細胞が近くにあるリンパ節に到着し、多数の樹状細胞やCD4細胞でHIVの爆発的な増殖が起こり、血流に乗って全身に撒布される。侵入からおよそ数日から4週間後であり、まだ十分な抗体は産生されない。急性感染期を過ぎると抗体が産生される。早い例では10-14日後、平均では3週間、8週間後の無症候期にはほぼ全例で抗体が検出できる。

【症状・徴候の頻度】発熱>80-90%、倦怠感>70-90%、発疹50-60%、筋肉痛と関節痛50-70%、咽頭炎50-70%、リンパ節腫脹40-70%、悪心、嘔吐、下痢30-60%、寝汗50%、血小板減少症45%、白血球減少症40%、体重減少24%、無菌性髄膜炎24%、食欲不振21%、肝機能異常21%、口腔カンジダ症17%、口腔潰瘍10-20%、陰部潰瘍5-15%、咳・上気道感染症状非常に稀。

【診断】丁寧な病歴の聞き取りで本症を「疑うこと」が一番である。HIV抗体スクリーニング検査では、陰性から弱い陽性→強い陽性と推移するので1回だけではわからない。最も感度特異度とも高いのはHIV RNAで、早い時期に高値となる。外注検査では数日を要するので、多くの施設では院内で実施する抗原抗体検査の方が先に結果がわかる。

【治療】多くの専門家は条件が整えば急性期でも治療開始を推奨している。急性HIV感染者の中には、強い全身症状とCD4細胞数の激減で免疫不全が進み、慢性期を経ずにエイズ発病してしまう例が稀にあるため。またCD4数が500/μL以上で治療を開始した方が、遅らせるより予後が良いことがあきらかとなっている。急性期にウイルス量が最も多く、水平感染の原因になりやすいので、ウイルス量を抑制することで性的パートナーへの感染を防ぐことにもなる。いったん始めた治療は継続することになるので、HIV感染者は人生の中で長い期間を治療に費やさなければならない。

吸入療法 Aerosolized pentamidine

【概要】元々喘息で行われていた治療法。エイズでは、ニューモシスチス肺炎予防あるいは治療としてペンタミジン(商品名ベナンバックス®注用)という液状の薬剤を、超音波ネブライザーで霧状に変え吸入させることがある。気道での薬の濃度をあげながら、体内にはあまり吸収されないので全身性の有害反応は少ない。ネブライザーの性能によって霧状の水滴の大きさが違い、末端まで届かない可能性もある。また座って吸入すると肺の上部に薬が行き届きにくい。

供血者検査 Blood donor testing

【概要】献血者は正確には供血者。検査は輸血を受ける人に適しているかどうかを判定するためであって、供血者の診断のためではない。血液型などの免疫血液学的検査、血球数の他、感染症のマーカーも調べられる。検査の結果は供血者に知らせない項目もある。

【詳しく】感染症マーカーでは、梅毒反応HBs抗原HBc抗体HCV抗体、HIV-1/2抗体、HTLV-1抗体、パルボウイルスB19、サイトメガロウイルス抗体、HBV、HCV、HIV、HEV(E型肝炎)の核酸増幅検査(NAT)を実施している。

凝固因子 Coagulation factors

【概要】血漿の中に含まれる血液凝固を引き起こす蛋白質群。ローマ数字がついた命名と一般名がある。第I因子はフィブリノーゲン、第II因子はプロトロンビンと呼ばれる一方、フィブリン安定化因子より第XIII因子と慣用されている。不足すると血液が固まりにくくなる。第VIII因子の欠乏症を血友病A、第IX因子の欠乏症を血友病Bと呼んでいる。ほとんどは肝臓で作られるので、肝臓移植をすると血友病は凝固因子の補充が不要になる。

偽陽性 Pseudo-positiveness

【概要】ある検査で本当は陰性であるのに、検査の特性から陽性と判定されてしまうこと。感度の高い検査法でよくみられ、真の陽性か否かを確認しなければならない。HIV抗体検査の場合、スクリーニング検査では、陽性の見落しをなくすために陽性の判定ラインを低く設定している。このため本当は陰性なのに検査上誤って陽性と判定される場合がある。確認検査を追加して最終判定を行う。

共用 Sharing

【概要】HIVが含まれていると思われるものが付着する恐れのある生活の道具を、個人使用としないで複数の人が使うことは問題がある。すなわち、カミソリ、歯ブラシなど。タオルも血液が付着するものは共用しない。感染予防の目的では食器、衣服、リネン類まで専用にする必要はない。注射器や針の共用は血液介在感染の危険性がある。

挙児希望 child-bearing

【概要】HIV感染者の男女のカップルが挙児を希望する場合、いくつかの前提条件と組み合わせが考えられる。精子や卵子そのものにはHIVは感染していないので、お互いへの感染、あるいは児への感染はウイルス量感染経路に依存する。ウイルス量については抗HIV療法のレジメンと継続期間が重要である。性的パートナーや母子感染の確率は、ウイルス量が低いほど低いというデータが蓄積されてきた。カップルの二人とも感染者か、あるいは男性が感染者か、女性が感染者かという不一致の場合がある。これらの因子をすべて考慮した臨床試験のデータはない。

挙児希望への生殖補助医療 child-bearing, assisted reproductive technology

【概要】HIV感染者のカップルが挙児希望の場合、事前に情報提供とカウンセリングが必要である。カップルの組み合わせによって提供できる生殖医療は以下の通りである。(1)両者が感染者、または男性のみが感染者の場合:精子洗浄と人工授精あるいは体外授精の組み合わせ。(2)女性のみが感染者の場合:人工授精。または男性の精液をシリンジ法で膣へ注入。以前は、精子洗浄法による人工授精が行われていたが、U=Uが証明されているので、PrEP等を用いて生殖医療技術を使用しない選択も十分に考えられる。

拠点病院 AIDS core hospital

【概要】平成5年7月28日の厚生省保健医療局長の通知文の中に、「住民に身近な病院において一般的な診療を行い、地域の拠点 病院において重症患者に対する総合的、専門的医療を提供」という文言がある。自治体を介して国の指定を受けている。拠点病院の要件としては、(1)総合的なエイズ診療、(2)医療機器と個室の整備、(3)カウンセリング体制の整備、(4)地域の医療機関との連携、(5)院内感染防止体制、(6)職員の教育、健康管理、などがあげられている。エイズに関する医療体制を整備するため、都道府県は拠点病院に対して積極的に支援を行うことになっている。しかし経験される患者数の違いで、大都市と地方、病院と病院のレベルには差があり、均一で良質な医療の提供とはなっていない。診療スタッフや心理カウンセラー医療ソーシャルワーカーの育成と確保が重要である。

キラーT細胞 Suppressor killer T cell

【概要】T細胞サブセットの1つ。CD4陽性細胞の中のヘルパーT細胞の命令で、ウイルス感染した細胞やがん細胞を障害するT細胞。CD8はこの細胞の表面の抗原(=名札のようなもの)。

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