ハ
パートナー告知 Partner notification
【概要】HIVに感染したことを交際相手や性的接触を持った相手等に伝えること。特に、性的接触のあった相手や注射器共用者には、感染の可能性についても伝え、HIV検査を受けるよう勧めることが多い。パートナー告知は主に、“自主告知”と“第3者告知”に分けられる。自主告知が最も自然だが、感染者にとっては大きな負担を伴う。そこで、本人に依頼された場合、“第3者告知”として、医師などの医療スタッフが代理に告知をすることがある。第3者がやる場合、そのトレーニング、記録を含めた機密保持、パートナーのインフォームド・コンセント、受けられる医療サービスなどの問題がある。また、出身国や地域など文化的・宗教的背景を把握することも重要される点である。
ハームリダクション Harm reduction
肺炎球菌ワクチン Pneumococcus vaccine
【概要】市中肺炎で最も頻度が高い肺炎球菌感染症に対する予防ワクチン。アメリカではHIV感染者の初期診療の中でワクチン接種が推奨されている。日本では2014年10月から65歳以上の高齢者を対象に定期接種が始まった。商品名:ニューモバックスの販売は萬有製薬、プレベナーはファイザー社。
【効果・効果】日本では2歳以上の肺炎球菌感染のおそれがある患者で、1)摘脾患者のみが保険適応。その他、2)脾機能不全患者、3)心・呼吸器の慢性疾患・腎不全・肝機能障害・糖尿病・慢性髄液漏等の基礎疾患のある患者、4)高齢者、5) 免疫抑制治療開始の10日以上前としている。
【有害作用】5%以上または頻度不明のものとして、関節痛、局所の疼痛、熱感、腫脹、発赤などがある。
肺高血圧症 Pulmonary hypertension
【概要】HIV感染症での多発が注目されている心臓血管系合併症。本来100万人あたり1-2人ときわめてまれだが、HIVでは推定有病率は0.5%と高い。肺の細小動脈壁が厚くなり肺高血圧になる。このため息切れ、疲れやすさ、失神、下肢や顔面の浮腫がみられる。確定診断からの生存期間は数年以内ときわめて予後不良である。抗HIV療法のみでは予後は改善しない。
【治療】経口血管拡張薬としてベラプロスト、ボセンタン、シルデナフィル、プロスタサイクリンなどが試みられている。また近年開発・販売された薬剤もある。有害作用は出血傾向、血圧低下など。
売春 Prostitution: Sex work
【概要】金銭などの対価を得る条件で、異性もしくは同性と性行為をおこない、条件に従って対価を得る行為。古くから世界中で見られる。歴史や文化や宗教などの社会的背景と個人の倫理観がからむ。多くの国で貧困と売春と麻薬の間にリンクがあり、HIVはこの三角を背景として拡散している。
バイセクシャル Bisexual
梅毒 Syphilis: lues
【概要】梅毒トレポネーマという原虫の感染症。主として性的接触により感染する性感染症(STD)の一つである。感染症予防法では第5類で全数報告となっている。1955年前後に患者発生は激減、近年増加が注目される。性感染で発見されるHIV感染者での陽性率は数十%とかなり高い。HIV感染者の初診時には必ず評価を行う。性行動が活発な感染者では、無症状でも定期的な検査を実施することが大切である。
【症状】潜伏期間ほぼ3週間。第1期;大豆大までの硬結、潰瘍が男性では亀頭、包皮、陰茎(ペニス)に、女性では陰唇、腟入口にできる。痛みはない。第2期;感染3ケ月以降にバラ疹、丘疹、膿疱、扁平コンジローマ、梅毒性脱毛、粘膜疹ができる。第1期と第2期を早期梅毒という。晩期梅毒;結節、ゴム腫、血管系梅毒、神経梅毒(進行麻痺、脊髄癆)など。症状があるのを顕性梅毒、無症状な状態を潜伏梅毒と言う。早期梅毒、神経梅毒は感染症法による全数届け対象である。
【診断と治療】トレポネーマの証明、梅毒反応(抗体)検査。治療はペニシリン。ペニシリンに対しアレルギーがある場合には、テトラサイクリン系抗生剤を用いる。日本ではペニシリン筋注製剤が未承認のため、内服では有効血中濃度を維持できないとされ、ブースターとしてプロベネシド(商品名ベネシッド®錠)と併用する。神経梅毒の場合には、入院してペニシリン点滴を1日4〜6回行う。治療期間は2〜4週間。治療開始24時間以内に高熱、皮疹が起こることがある。これは、ヤーリッシュ・ヘルクスハイマー反応と呼ばれ、トレポネーマが大量に死滅する際の反応で、特に治療は不要。しかし、服用後1週間くらいに起こる発熱、皮疹は、ペニシリンアレルギーの可能性がある。
梅毒反応 serological tests for syphilis: STS
【概要】梅毒トレポネーマ(Treponema pallida;TP)に感染したあとに生じる抗体検査のこと。梅毒反応には、大別してRPR法に代表される脂質抗原抗体検査とTPHA法に代表されるTP抗原に対する検査の2種類に分類される。脂質抗原抗体検査はトレポネーマに対する特異性が弱いが病気の活動性を反映する。TP抗原に対する抗体は、特異性は高いが治癒後も完全には陰性にはならない。保険上はスクリーニングにはそれぞれの定性法を、治療決定と経過観察の確認検査には、それぞれの定量法を組み合わせる。RPRが16RU以上は、現在活動性の梅毒があるとして治療を行う。また感染症法にもとづいた届けも必要。梅毒ではないのにRPR(+)・TPHA(-)となる場合は生 物学的偽陽性と言う。
ハイビッド錠
ハイリスク high risk
バクタ®配合錠
【概要】ニューモシスチス肺炎の治療や予防として確立されている。サルファ剤である『スルファメトキサゾール』と『トリメトプリム』配合剤の商品名。詳細は、『ST合剤』を参照。
バクトラミン®配合錠、バクトラミン®注射
パクリタキセル
曝露後予防 PEP: Post exposure prophylaxis
【概要】HIVに感染した可能性がある時、72時間以内に抗HIV薬の内服を開始し、HIVに感染するリスクを低下させる予防策のこと。PEPが開始された場合、1日1回か2回(選択された組み合わせにより異なる)の内服を28日間続ける必要がある。HIV感染者からの針刺し事故や、バリアのない性的接触ではHIV感染の危険性があり、前者を職業的曝露、後者を非職業的曝露と言う。職業的曝露からHIVに感染するリスクは、経皮的曝露では約0.3%、粘膜曝露では約0.09%と報告されている。日本では2010年から医療者の針刺し事故には労災保険が適用されている。PEPをするかどうかは情報を与えられた本人が決める。迷うなら1回目の服用を行い、拠点病院の担当者など専門家に相談をして継続するかどうかを決めるのが良い。PEPはできるだけ早く(遅くとも72時間以内)開始し、4週間は継続する。推奨のレジメンは、ラルテグラビルカリウムまたはドルテグラビルナトリウムとテノホビルジソプロキシルフマル酸塩/エムトリシタビン(商品名ツルバダ®配合錠)。曝露者が妊婦でなければ、ツルバダ®配合錠の代わりにデシコビ®配合錠でもよい。検査、薬の副作用モニターのために4ヶ月まで観察す る。
曝露前予防 PrEP: pre-exposure prophylaxis
【概要】HIV感染のリスクが非常に高い人(sexパートナーがHIV感染者など)が、原則として毎日、抗HIV薬の内服行い、HIV感染を予防する方法。PrEP療法は、規定どおりに使用するとHIV予防効果は高いが、一貫して服用しないと効果が低下するといわれている。薬剤で使用が承認されているのはツルバダ®配合錠。CDCでは、毎日内服するPrEPを推奨しているが、現実的には性行為前24時間以内に2錠、行為後24時間、48時間にそれぞれ1錠服用するレジメンのオンデマンドPrEPが頻用されている。ANRS IPERGAYは700人の比較試験で、ツルバダ®配合錠によるオンデマンドのPrEPはリスクの高いMSMでのHIV-1感染症の発生率を86%低下させたが、やはりPEPに比べると有効率は低い。
派遣カウンセラー Psychological counselor dispatched by local government
【概要】自治体により派遣されるHIVカウンセラー。専門的な研修を受け、HIV感染者やその家族・パートナーなどへの心理的なサポートを行う。告知直後の危機介入や病院内に専門カウンセラーがいない場合の継続的な心理面接を担っている。さらに、医療スタッフに対しても患者対応のコンサルテーションなどの形で支援を行っている。HIV感染症・エイズ医療の現場では患者の心理的ケアのニーズが高い。エイズの派遣カウンセラー制度は、医療機関や保健所などに専門的な研修を受けたカウンセラーを、自治体が派遣する制度。自治体により派遣の形態は異なるが、カウンセリング料金は無料である。事業の経費は、国と都道府県の折半となっている。医療スタッフ側が患者の心理的なニーズにアンテナを張ることが必要。つまり医療機関からの要請がないと患者を訪問することはできない。
白血球 Leukocyte: white blood cell
バラクルード®錠
【略号】ETV
【概要】B型肝炎の治療薬。核酸系逆転写酵素阻害薬『エンテカビル』の商品名。詳細は、『エンテカビル』を参照。
バラシクロビル
バリキサ®錠
【略号】VGCV
【概要】サイトメガロウイルス治療薬。抗ウイルス薬『バルガンシクロビル』の商品名。詳細は、『バルガンシクロビル』を参照。
針交換プログラム Needle exchange program
針刺し事故 Needle stick accident
【概要】患者に使った針を誤って医療従事者に刺してしまうこと。医療現場では日常的に事故が多発していて安全策が講じられているが、皆無にはできない。CDCが行った調査によると、HIV針刺し事故で感染が成立した例は、1)深い傷、2)目に見える血液の付着、3)動脈か静脈に入っていた針、4)末期患者であれば感染が発生しやすかった。そして、5)事故後にジドブジン服用によって感染率を79%減らしていると計算された。そのため曝露後予防として抗HIV薬の内服が推奨されている。未治療のHIV感染者の血液の針刺し事故では、99.7%が感染しないが、迷うときは、最初の1回目を服用し翌日までに専門家に相談することを勧める。曝露後予防内服は労災保険の給付対象となっている。詳細は「曝露後予防」参照。
バルガンシクロビル
【用法・用量】初期治療として1回900mgを1日2回食後内服。維持療法では、1回900mgを1日1回内服。
【概要】サイトメガロウイルス治療薬。抗ウイルス薬。妊婦は禁忌。