H
HAD HAD: HIV associated Dementia
【概要】HIV認知症。HIV関連神経認知障害の最重症型。
HAND HAND: HIV associated neurocognitive disorders
【概要】HIV感染者に見られる神経精神症状のうち、日和見感染症や腫瘍あるいは薬物による障害を除いたもの。HIVによる直接の中枢神経障害のこと。詳しくは『HIV関連神経認知障害』を参照。
HAV HAV: Hepatitis A Virus
『A型肝炎ウイルス』の略号。『A型肝炎ウイルス』を参照。
HBV HBV: Hepatitis B Virus
『B型肝炎ウイルス』の略号。『B型肝炎ウイルス』を参照。
HCV HCV: Hepatitis C Virus
『C型肝炎ウイルス』の短縮形。『C型肝炎ウイルス』を参照。
HHV-8 HHV-8: Human herpes virus type 8
【概要】ヒトヘルペスウイルス8型。KSHV(KS-associated herpesvirus)とも呼ばれる。カポジ肉腫の組織から発見された8番目のヘルペスウイルスの仲間で、感染するとキャリアになる。アメリカの一般人口での抗体陽性率は1〜5%、男性同士で性行為をする男性は20〜77%である。ART前の時代ではアメリカのエイズ患者の30%にカポジ肉腫が発生していた。他に、原発性滲出性リンパ腫(Primary effusion lymphoma; PEL)、多中心性キャッスルマン病でも検出される。研究目的で末梢血中HHV-8の量をリアルタイムPCR法で測定できる。感染者は無症状で、ウイルスを唾液と生殖器分泌液中に周期的に排出する。またリンパ球にも感染し、前立腺組織でも高率にみつかる。おそらく性行為を介して感染すると考えられている。ARTを実施すること自体が腫瘍発生の予防になる。試験管内では抗CMV薬であるガンシクロビル、シドフォビル、ホスカルネットが有効であるが、カポジ肉腫に対する効果は未確立である。カポジ肉腫の患者にARTを行うとHHV-8に対する免疫再構築症候群が起こることがある。
HIV HIV: Human immunodeficiency virus
【概要】ヒト免疫不全ウイルス。エイズなど一連のHIV感染症の原因ウイルス。「エイチ・アイ・ヴイ」と読む。エイズウイルスは一般語あるいはマスコミ用語。タイプ、グループ、サブタイプなどに細分類される。直径は100ナノメーター程度。外膜はヒトの細胞膜に由来する脂質二重層である。この膜にHIV特有のgp120という抗原があり、gp41はその根っこにあたる。外膜の裏をp24という蛋白がつながって袋を作り、その中にHIVの遺伝子RNAが2本と3種類の酵素が入っている。HIVの増殖サイクルはつぎの通りで、各ステップは治療の標的になる。(1)接着:HIVのgp120という糖蛋白が、標的細胞の表面にあるCD4蛋白とCCR5またはCXCR4というケモカイン受容体と接着する。(2)癒合:HIVのgp41の立体構造が変化し、ウイルスと細胞の膜同士が癒合する。こうしてp24に包まれたHIVの中身が細胞内に侵入する。細胞内でp24の袋が開かれ、2本の遺伝子RNAと酵素が出てくる。(3)逆転写:HIVの遺伝子RNAは持ち込まれた逆転写酵素によって、人間の遺伝子の形であるDNAにコピーされる。(4)組み込み:DNAはインテグラーゼという酵素の力で人間の細胞の核内にある遺伝子DNAに組み込まれる。これをプロウイルスDNAという。(5)転写:プロウイルスDNAの情報が転写されると核内でメッセンジャーRNAとゲノムRNAが作られ(、6)翻訳:細胞質に移って設計図に従ってリボゾームで酵素や膜などの構成分が作られ、(7)組み立て:ゲノムRNAとともにウイルス粒子が形成され、(8)出芽:細胞から出芽しながらプロテアーゼによって成熟蛋白になる。
HIV RNA量 HIV RNA amount, Viral load, VL
【概要】現在の測定法はリアルタイムPCR法。HIVの遺伝子はRNA(リボ核酸)という物質でできている。1996年に核酸増幅法(NAT)により量を測れるようになり、病気の理解や治療の考え方に大きな影響を与えた。血漿1mLの中にRNAが1,000本あったら、1,000コピー/mLと表現する。一般的には感染の数週間後から2-3ヶ月後までの急性期には10の6乗ぐらい、慢性期は10の4乗ぐらい、エイズ発病の末期に10の5乗あたりになる。血漿中のHIV RNA量の半減期は6時間と推定され、ウイルス増殖の勢いを示す。急性期の後に抑えられた量が低ければ低いほど、慢性期の長さが長いと言われている。測定の意義として(1)病気の進行速度の予測、(2)抗HIV療法の効果:3ヶ月以内に検出限界以下になる、(3)服薬不良・耐性化の発見などに利用されている。臨床的に意味がある変動は、実数で1,000→10,000→100,000というものなので、指数にすると10の3乗→4乗→5乗ということが多い。さらに常用対数にして、3ログ→4ログ→5ログ(Log)という表現をすることもある。
HIV-1 HIV-1: Human immunodeficiency virus, type I
HIV-2 HIV-2: Human immunodeficiency virus, type II
【概要】HIV-2型は西アフリカ地域に約100万人と、交流が深いヨーロッパで発見される第2のエイズウイルス。日本では1993年初めに東アジアの男性旅行者とアフリカからの留学生から検出された。日本の感染者は2006年に初めて確認され現在までごくわずかである。臨床経過はHIV-1よりもかなり長い。中央アフリカ地域ではHIV-1とHIV-2の重(複)感染者がいるという。現在実施されている第4世代のスクリーニング検査ではHIV-1とHIV-2の両方の抗体を検出することができる。ただし、どちらに対する抗体か正しく識別できないので、ウエスタンブロット法で推定している。血漿中のRNA定量法はHIV-2を検出することはできず、研究室レベルで測定するしかない。またHIV-1に比べてウイルス量が概して少なく、検出限界未満の検体がある。プロウイルスDNAの測定法は確立していない。
HIVAN HIVAN: HIV associated nephropathy
『HIV腎症』を参照。
HIVカウンセリング AIDS/HIV counseling
【概要】慢性疾患であるHIV感染者のケアには、医学的なケア、社会的なケアとともに、心理的なケアが必要である。カウンセリングの目的は感染者が抱える心理的な課題を一緒に考え、情報を提供し、その人にとって最も大切な生き方は何かを探し、生活の質を高める援助を行う。説得することではない。対象者(クライエントという)は感染者本人のみならず、感染を恐れる人、家族、友人、医療従事者も含まれる。カウンセリングは友人、感染者同士(ピア・カウンセリング)、精神科医を含む医療従事者、福祉や心理の専門家など、それぞれのケア場面で行われる。HIVカウンセリングには、(1)エイズの予防啓発のカウンセリング、(2)HIV検査前後のカウンセリング、(3)感染者や家族の支援カウンセリングがある。ことにHIV感染の告知、家族やパートナーへの告知、服薬開始、発病、末期、死別など重い課題が多い。本症では感染告知という最大の山場が最初にある。さしあたっての情緒や行動の混乱をおさめ、対処する能力を回復させる。
HIVサブタイプ HIV subtype
【概要】遺伝学的系統分類でHIVはHIV-1とHIV-2のタイプに分けられ、HIV-1はM、N、Oの3つのグループに分けられ、グループMはさらに10種類近いサブタイプに分類される。分ける根拠は遺伝子の配列の類似性で決定している。サブタイプによって疾病の自然歴、感染力、抗HIV薬への反応が異なる可能性がある。サブタイプのうち、Aは中央アフリカとインドの一部、Bは南北アメリカとヨーロッパ、Cはアフリカ南部と東南アジアなどが主な流行地域。日本の血液製剤感染や同性間性感染もBである。この他、D、F、G、H、J、Kなどがある。日本に増えたタイE型は、サブタイプAに由来した組み換え体で、CRF01_AE(CRF-circulating recombinant form)と記される。
HIVワクチン HIV vaccine
HIV感染症の治療 Treatment for HIV infection
【概要】現在のHIV感染症治療の目標は、(1)HIVの増殖を可能な限りおさえ、(2)免疫不全の進行をとめ、あるいは回復させ、(3)二次的に発生する日和見感染症や腫瘍を予防すること、(4)日和見疾患以外の合併症を予防すること、そして(5)他者への感染を予防することである。毎年その時点で最新の証拠を勘案したものがガイドライン(治療指針)として示されている。治療経験が少ない医師は、必ず専門医に相談することが大切である。
【治療開始のタイミング】大規模な無作為化比較試験の結果、CD4細胞数に関係なく、すべてのHIV感染者にART開始が推奨されるようになってきた。効果的なARTはHIV感染者からの性的パートナーへのHIV感染を予防することが明らかになった。事情が許せば診断後なるべく早期に治療を開始することが勧められている。
【初回治療のレジメン】日本エイズ学会、厚生労働省研究班、DHHS、EACSと様々であるが、どれを参考にしてもよい。核酸系逆転写酵素阻害薬2剤+インテグラーゼ阻害薬1剤が一般的であるが、患者の状況や薬剤耐性変異ウイルスなどにより、核酸系または非核酸系逆転写酵素阻害薬1剤+インテグラーゼ阻害薬1剤の2剤治療も行われている。基本的に、開始したら止めることはできない。有害事象などが起こったら違う薬剤へ変更する。やむを得ず治療中断となっても1週間程度は、ウイルス量が再上昇することはない。抗HIV薬の有害事象に耐えられない場合や、効果不十分、耐性発生の場合には治療レジメンを変更する適応がある。他に患者独自の生活サイクルにあわせる、服用錠剤数を減らして利便性向上の目的で変更することがある。
HIV感染症の診断法 Diagnosis of HIV infection
【概要】血液検査により診断する。スクリーニング検査と確認検査があり、確認検査で陽性であれば確定する。具体的な検査方法・診断の流れは、日本エイズ学会と日本臨床検査医学学会が推奨している『診療におけるHIV-1/2感染症の診断ガイドライン』に従う。医療機関でのHIV感染症の診断法を以下のように推奨している。(1)HIV-1/2スクリーニング検査を実施する。・陰性→非感染、またはウインドウ期。ウインドウ期であれば適切な期間を開けて再検査。・陽性または判定保留には確認検査を実施する。(2)HIV-1確認検査は新規のHIV-1/2抗体確認検査及び核酸増幅検査(RT-PCR法など)を行う。・両者が陽性→HIV-1感染者。・抗体確認検査陰性でPCR陽性→急性HIV-1陽性者。(2週間後に抗体検査再検)・抗体確認検査保留でPCR陽性→急性HIV-1またはHIV-2感染者。(2週間後に抗体検査再検)・抗体確認検査陰性/保留でPCR陰性→さらに2週間後に再検査で再確認し、陰性ならスクリーニング検査は偽陽性と判定。・抗体確認検査陽性でPCR陰性→急性HIV-2感染者。(3)母子感染の診断・生後1年半までは母親からの移行抗体があるので抗体検査は有用でない。児の血液中のHIV抗原またはHIV-1核酸増幅検査(RT-PCR法など)が陽性の場合に感染と診断する。
HIV感染症専門薬剤師 Board Certified HIV Pharmacy Specialist(HIVPS)
HIV関連神経認知障害 HAND: HIV-associated neurocognitive disorders
【概要】HIVが神経系に感染して引き起こす疾患を包括した概念。母子感染の小児例では発達障害が現れる。昔は進行した脳萎縮による認知障害が発生したものを「エイズ脳症」や「エイズ痴呆」と呼んでいたが、最近は急性感染から末期に至る一連の病態と捉えるようになった。抗HIV療法が早期に実施されるようになり末期状態のHIV脳症は明らかに減った。一方、軽度の障害はCD4細胞数に関係なく、どの病期でも発生する。日本の研究では約25%の罹患率と報告された。
【分類】治療中の患者の有病率は、無症候性神経認知障害(ANI:33%)、軽度神経認知障害(MND:w12%)、HIV関連認知症(HAD:2.4%)という報告がある。
【症状】急性期の症状は無菌性髄膜脳炎と同じである。回復後の慢性期の症状としては緩徐に進行する、認知障害、抑うつ症状、精神運動の遅滞などがみられる。末期には頭痛、認知障害、協調運動障害、けいれん、麻痺、記憶障害、集中力低下、判断力低下、失禁、無言、無動などが起こる。
【診断】HIV感染者に説明できない認知障害がある場合、本症を強く疑う。中枢神経系へのHIV感染以外に、神経梅毒、腎不全、肝不全、甲状腺機能低下症などの合併症、使用薬剤、依存症と離脱症状、社会心理的な要因を鑑別する。このように、本症に特異的な検査法はない。(1)中枢神経障害を起こす他の疾患、つまり感染症やリンパ腫、進行性多巣性白質脳症(PML)等を除外する。(2)脳画像検査:CTとくにMRIによって年齢不相応な脳萎縮や白質の変化がある場合、本症を支持する。(3) 脳脊髄液(CSF)中のHIV RNA定量は中枢神経内でのHIV複製の程度を示し、急性感染に伴う神経症状とはよく相関する。(4)神経心理学的検査は最も適していると思われる。「言語・発語」「注意・作業記憶」「抽象化・遂行機能」「記憶・学習と早期」「情報処理速度」「運動能力」「視空間構成」などが標準的方法で検査される。感度・特異度ともまだ不十分であり補助的である。
【治療】抗HIV療法を行う。HIV感染症の早期に実施することで本症の発生頻度が低下したこと、また神経認知障害がある患者に抗HIV療法をすると著明に改善する例がある。一方、抗HIV療法実施中にも関わらず本症が発生する例もある。HIV自体が原因か、炎症が原因か、何を目安にどのような治療を追加すべきなのかはわかっていない。
HIV検査 HIV infection, biomarkers of-
【概要】HIVに感染しているかどうかを判定する検査項目。HIVの抗体をみつける抗体検査と、HIVの抗原をみつける抗原検査、遺伝子を見つける遺伝子増幅検査がある。またスクリーニング検査と確認検査と分類することもできる。検査のタイミングが早すぎて、量が少なすぎると検出できないことがある(ウインドウ期)。感染から2-3ヶ月経過しているならスクリーニング抗体検査が最も多く行われている。検査法の世代ごとの検出の特徴と、検出できる感染後の日数を示す。(1)感染後約10日の急性期にNAT法でHIV RNAを検出。量は10の6乗レベル以上。(2)RNA出現4-10日後に第4世代検査でHIV(p24)抗原が検出できる量になる。(3)RNA出現10-13日後、p24抗原出現から3-5日後にはIgM抗体が出現し、第3世代検査で検出できる。(5)その後IgG抗体が増え、HIV RNA検出から18-38日後に第2世代、およそ50日後にようやく第1世代検査で検出できるようになる。抗体は感染している限り治療などで消えることはない。
HIV抗原 HIV antigen, p24 antigen
HIV抗体 HIV antibody
HIV抗体検査 HIV antibody testing
【概要】大きく2つに分類される。(1)スクリーニング検査法: PA法、ELISA法、CLIA法、CLEIA法、IC法。第3世代以後のキットでは、一つの試薬でHIV-1とHIV-2の両方を検出できる。スクリーニング検査は「見おとしを避ける」ことを主眼にしているので、非常に感度が高い。逆に感度が高すぎて本当は陰性なのに陽性と判定(偽陽性)する可能性がある。(2)確認検査法:ウエスタンブロット(WB)法。鋭敏ではないが陽性と出たら確実な陽性である。判定困難な場合は「判定保留」とされ、後日の再検査が勧められる。但し、2020年には、HIV-1/2抗体確認検査(商品名:Geenius HIV-1/2キット)が承認・販売され、こちらが新たな確認検査法として推奨されている。通常はスクリーニング検査を先に実施し、陽性の場合に確認検査に進む。急性HIV感染の可能性が高いときは同時にHIV RNA検査を実施する。
HIV消耗性症候群 HIV wasting syndrome, Slim disease
【概要】エイズ指標疾患の一つ。HIV感染症が進行して、1ヵ月以上続く発熱、下痢、意図しない10kg以上の体重減少が現れたもの。 【原因】不明である。腸管粘膜は本来CD4細胞が豊富にある所。HIVによる腸粘膜の萎縮や機能異常が考えられる。これに食事摂取の低下、代謝異常、性腺機能低下など内分泌代謝異常が複合している。
【診断】確定的な診断法ではないが、以下のすべてに該当するものである。1)通常の体重の10%を超える不自然な体重減少。2)慢性の下痢(1日2回以上、30日以上の継続)又は慢性的な衰弱を伴う明らかな発熱(30日以上にわたる持続的もしくは間歇性発熱)。3)HIV感染以外にこれらの症状を説明できる病気や状況(癌、結核、クリプトスポリジウム症や他の特異的な腸炎など)がない。
【治療】1)抗HIV薬の使用でHIV増殖を抑えること、2)栄養補給で、この他に評価を得た治療法はない。
HIV腎症 HIV nephropathy, HIV-associated nephropathy (HIVAN)
HIV脳症 HIV encephalopathy
『HIV関連神経認知障害』を参照。
HPV HPV: Human Papiloma Virus
『ヒトパピローマウイルス』の短縮形。『ヒトパピローマウイルス』を参照。
HPVワクチン HPV vaccine
【概要】ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染を予防するワクチンは3品目がある。HPV 16,18型の2価ワクチンであるサーバリックスと、尖圭コンジローマの原因であるHPV 6,11型を含めた4価ワクチンであるガーダシル®と、HPV 31,33,45,52,58型を含めた9価ワクチンであるシルガード®9がある。HPV 16,18型は子宮頸癌以外に、陰茎癌、口腔癌、肛門癌、咽頭癌などの原因でもあり男性にとっても問題である。日本では2011年度から10歳以上の女性に対し、公費助成が始まったが、2013年6月に、接種のあと原因不明の体中の痛みを訴えるケースが報告され、薬害訴訟が始まった。2013年6月接種希望者の接種機会は確保しつつ、適切な情報提供ができるまでの間は、積極的な勧奨を一時的に差し控えるべきとされた。しかし、2021年11月、安全性について特段の懸念が認められないこと、接種による有効性が副反応のリスクを上回ることより、積極的な勧奨を差し控えている状態を終了するとされた。また、2020年12月よりガーダシル®の適応に男性が追加されている。
HRD HRD: HIV Related Drugs
【概要】医療機関で既に使用されているHIV感染症治療薬及びHIV関連疾患治療薬についてその安全性及び有効性を調査しており、HIV related drugsの頭文字を取って「HRD共同調査」と名付けられている。