HIV感染症の治療
HIV感染症に対して、1997年からHAART(Highly Active Antiretroviral Therapy:多剤併用療法)という治療ができるようになり、HIV感染者の生命予後は飛躍的に改善しました。 最近では単にART またはcART(c=combination)とも呼ばれるようになりました。抗HIV療法は、変異しやすいHIV の特徴を踏まえ、1剤で治療することはありません。少なくとも2剤以上の薬剤を使用します。使用される薬剤は一般に、核酸系逆転写酵素阻害剤とインテグラ-ゼ阻害剤です。
現在では薬も改良され、副作用が非常に少ないものや1日1回1錠でよいものなどが使用できるようになりました。患者さんの服薬の負担は劇的に改善しましたが、HIV を体内から排除する根治治療は、今のところありませんので、一生続ける必要があります。
HIV感染後の平均余命
2011年に報告されたデンマークの調査※1によって、25歳にHIV感染した場合の余命が、示されました。C型肝炎などの合併がなく、かつART によってコントロール良好な感染者は、非感染者と予後に差がありませんでした。さらに、アメリカの調査※2では、CD4 数>500 /μLで治療を開始した20歳時のHIV 感染患者の平均余命は、54.5 歳と非感染者と変わらないと報告されています。
抗HIV 薬がなかった時代には、10年くらいしか生きられないと言われていたHIV感染症でしたが、ウィルス発見から約20年が経過し、治療の進歩によりHIV陽性者の生命予後は飛躍的に延びています。
※1 Obel N, Omland LH et al. Impact of Non-HIV and HIV Risk Factors on Survival in HIV-Infected Patients on HAART: A Population-Based Nationwide Cohort Study. PloS One. 2011
※2 Marcus JL, Chao CR, et al. Narrowing the gap in life expectancy between HIV-infected and HIV-uninfected individuals with access to care. J Acquir Immune Defic Syndr. 2016.
ARTの開始時期
推奨度の違いはあれ、原則的に診断したら速やかに治療開始です。しかしながら、外来での1ヶ月分の医療費の自己負担は、約7〜8万円になります(健康保険使用、3割負担で計算)。そのため多くの患者さんは、自己負担を減らすために自立支援医療制度を利用して治療を行いますが、制度の申請には、ウイルス量やCD4数などの検査値が4週間以上間隔を空けて2回測定する必要があること、CD4数>500 cell/μLでは該当しない場合もあること、などの問題があります。
詳細は、最新のHIV感染症治療研究会発行の『治療の手引き』や、厚生労働省研究班のガイドラインを参照して下さい。
適切な治療開始時期を逃さないために、早期にHIV感染症を見つけることと、 定期的に受診することが重要となります。