HIV_AIDS関連文献

中四国エイズセンター:部内学習資料:翻訳

AACTGの代謝異常ガイドライン

糖代謝異常:インスリン抵抗性と糖尿病

http://aactg.s-3.com/metabolic/diabetes.pdf
翻訳: 広島大学医学部附属病院エイズ医療対策室 高田 昇、西村 裕

1. 定義

1-1. インスリン抵抗性:

 インスリンの正常な生理学的効果を発現させるために高濃度のインスリンが必要となる状況で発生する。その原因は肝の糖産生の抑制(肝糖新生)や筋肉と脂肪細胞のブドウ糖の取り込みの増加などによる。血糖を正常に維持するために、正常では膵臓が正インスリン分泌を増加させ補っている。つまり、空腹時のインスリン値の上昇はインスリン抵抗性のマーカーのひとつである。

 

1-2. 耐糖能障害(IGT):

 経口ブドウ糖負荷試験である、75g経口ブドウ糖負荷後の血糖の上昇が140〜199mg/dlの時にいう。

 

1-3. 空腹時血糖異常(IFG):

 空腹時血糖が110〜125 mg/dlの時をさす。IGTとIFGはインスリン抵抗性の存在を示唆しているかもしれない。

 

1-4. 糖尿病:

 空腹時血糖が126mg/dl以上か、食後2時間の血糖値が200mg/dl以上の結果が繰り返すことで診断される。成人発症型やU型糖尿病と診断された場合は普通、インスリン抵抗性が存在する。上昇する空腹時血糖に対しては理にかなっているが、インスリン抵抗性に打ち勝つだけの充分なインスリンを膵がもはや分泌できないという解釈も正しいと思われる。

 

2. 背景

 抗レトロウイルス治療以前、HIV-1感染者のインスリン抵抗性糖尿病は比較的まれであった。糖尿病はしばしば特殊な治療(例えばペンタミジンや酢酸メゲステロール)あるいは一般の素因と関連していた。有効な抗レトロウイルス治療を受けている患者のほとんどで空腹時血糖は正常であるが、プロテアーゼ阻害剤を含む併用療法の患者の40%で明らかなインスリン抵抗性による耐糖能異常を呈する。

 高血糖がなくてもインスリン抵抗性はありうる。非HIV感染者のインスリン抵抗性は心血管合併症の危険性の増加と関連している。同様の危険性がHIV-1感染者における薬物あるいはリポジストロフィーと関連しているかどうかは、まだ確認されていない。

 考えられるメカニズムとしては、PI剤が直接ブドウ糖の細胞内への取り込みを障害する可能性と、中心性肥満や末梢の脂肪萎縮などを含むリポジストロフィーの体脂肪変化に関連した間接的なものがある。脂肪萎縮のセクションで示されているように、リポジストロフィーはヌクレオシド系薬剤を含む非PI剤によっても引き起こされうる。一般の人達のように、HIV感染者における内臓脂肪の増加と四肢脂肪の減少はインスリン抵抗性と関連しているかもしれない。

 インジナビルは細胞内へのブドウ糖輸送体であるGlut-4を阻害することで細胞内ブドウ糖の取り込みを阻害し、またはペルオキシゾーム増殖活性化受容体ガンマ(PPAR-γ)を阻害することで、インスリン抵抗性を引き起こしている可能性がある。すべてのPI剤がそのような変化を起こすかどうかは不明で、異なるPI剤の相対的な危険度は比較臨床研究がないため、やはり不明である。アンプレナビルは直接的にはインスリン抵抗性を引き起こさないが、他のPI剤に関してはヒトではまだ十分に研究されていない。

 

3. 評価とモニタリング

 PI治療を開始することで新たに、あるいは既存の耐糖能障害の悪化を引き起こす可能性がある。

PI剤を含む抗レトロウイルス治療を開始する場合、事前にあるいは治療経過中に空腹時血糖を評価するべきである(開始後3-6ヶ月ごと、それ以後は一年毎)。U型糖尿病の危険因子の存在する患者や高度の体脂肪変化が進行している患者に対しては経口ブドウ糖負荷試験が最適の予備検査である。

 

4. 治療

 HIV感染者の糖尿病の治療に関するデータが少ないため、一般の糖尿病患者における確立されたガイドラインが参照される。健康的で、バランスのよい食事と規則的な運動がすべての患者に対して重要で、とくに糖尿病への発展を予防するために耐糖能障害のある患者ではとくに重要である。耐糖能障害のある、あるいはインスリン抵抗性のある、あるいは糖尿病の危険度の高い体重の多い患者では減量が推奨される。

 糖尿病に対する治療が必要になったとき第一選択として、metforminや thiazolidinedione (pioglitazone やrosiglitazone) のようなインスリン感受性増強剤がまず考慮されるべきである。経口のsulfonlyurea剤やmeglitinideそしてインスリンはさらに空腹時高血糖が重度の場合にも適切かもしれないが、インスリン抵抗性のあるHIV-1感染者における有益性は少ないかもしれない。

 もともと糖代謝異常が存在する患者や、糖尿病の危険因子の存在する患者では、初期治療としてPI剤を含む併用療法やそれに引き続く代替治療におけるPI剤の使用は可能な限り避けるように考えるべきである。PI剤の代わりとして、ネビラピン、エファビレンツ、アバカビルは短期間のインスリン抵抗性の改善との関連があり、ウイルス学的に適切であれば考慮してもよい。

 空腹時血糖が正常で、インスリン抵抗性があるHIV-1感染者に対する治療薬については十分なエビデンスがない。Metforminを使用したHIV-1 患者の数少ない研究では、インスリン量、腹囲、血圧、そして心血管危険因子のいくつかのマーカーを減るという利点が示された。リポジストロフィーがある非 HIV感染者に対して、Thiazolidinedioneはインスリン感受性を増加させ脂肪萎縮を改善させる。

 これらの薬剤を開始した後には、例えば肝機能障害(thiazolidinedione)、乳酸アシドーシス(metformin)など副作用に注意深いモニタリングをしなければならない。医師は患者に肝機能障害や乳酸アシドーシスの典型症状を説明しておく必要がある。Thiazolidinedione の開始後12ヶ月間は肝酵素を2ヶ月ごとに検査しなければならない。Metformin投与中に乳酸アシドーシスを示す新しい症状が現れたら、血漿乳酸値を測定しなければならない。重度の肝疾患ある患者(ASTかALTが正常上限の2.5倍以上)にはthiazolidinedioneは投与してはいけない。血清クレアチニンが年齢における正常上限より高い場合や、高乳酸血症(静脈乳酸値が正常上限の2倍以上)がある時にはmetforminは使うべきでない。すべてのこれらの薬剤を使用する医師は、一般的に使用されるHIV治療薬との相互作用の可能性について熟知しておく必要がある。

 

5. 参考になるAACTG研究

 インスリン抵抗性と心血管疾患の危険度の増加や他の有害事象との関連があるため、AACTGのHIV疾患合併症研究委員会(RAC)はインスリン抵抗性のあるHIV感染者に関する研究をもっとも重要視している。次のような研究が現在行われている:

A5082: 「空腹時高インスリン血症とウエスト/ヒップ比の上昇を伴うHIV感染者においてmetoforminとrosiglitazoneの単独、併用に関する偽薬対照の無作為化二重盲検研究」  この研究はこれらの薬剤の効果と安全性を評価するもので、これらの薬剤は作用機序が異なっており、現在のところU型糖尿病の治療として承認されている。一時的な効果は内臓脂肪、空腹時インスリン、そして経口ブドウ糖負荷試験におけるインスリン反応性の変化にみられる。

6. 参考文献

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