中四国エイズセンター部内学習用資料:翻訳 No.1

リコンビナント凝固因子製剤の製造の現状と

現在の製造工程

著者: Claude Negrier, MD, PhD
出典: Addressing Therapeutic Challenges in Haemophilia
翻訳: 広島大学病院 輸血部 藤井輝久

 血友病の出血コントロールに輸血を行ったのは、1840年代初めに術後に行ったのが最初であるが、1940年のCohnが行うまで血漿成分蛋白を補充することに成功したものはなかった。1950年代に、血友病患者に対し凝固第VIII因子を補充するために新鮮凍結血漿を用いるのが、治療の標準となった。1964年に血漿のクリオプレシピテートが確認され文献となっているが、これは後に凍結乾燥製剤の発達を可能とした。当初これらの製剤は純度が低かったが、様々な改良が加えられ高度純化第VIII因子製剤が血友病患者の治療として使用できるようになった。1990年代初めには、リコンビナント第VIII因子製剤が臨床使用されるようになった。
 凝固因子製剤の製造技術の向上と並行して、血友病患者の予測寿命も延びている。

 不幸なことに1980年代初めまで、クリオ製剤を使用した血友病患者に対する血液由来の病原体の感染リスクについて、認識されていなかった。そのためウイルス検出法が行われるようになり、このことは未だに重大な関心事となっている。
 製剤製造時にドナーのスクリーニングやウイルス不活化処理、純化などが用いられているが、それらは全てウイルス伝播のリスクを減らすための方法である。リコンビナント製剤の製造工程でも、ヒト凝固因子を発現している培養細胞からクロマトグラフィー法やイムノ・アフィニティー法を用いて純化することで、収率の高い製剤が得られている。しかし高濃度の第VIII因子は不安定である。そのため分子の安定化のために、ヒトやウシ血清アルブミンなどのタンパク質を添加している。この技術を用いて第1世代のリコンビナント製剤(表1)は、臨床使用されるようになった。ウイルスが混入した例は、リコンビナント製剤からは報告されていない。しかし、製造工程において使用した培養細胞(チャイニーズ・ハムスターの卵巣または幼若なハムスターの腎細胞)からウイルス粒子、イムノ・アフィニティー法に使用するモノクローナル抗体からネズミ指向性ウイルス、アルブミンに混入する血液介在性ウイルス(パルボウイルスB19、プリオン、輸血伝播ウイルス[TTV])、ウシ血清に混入するウシ指向性ウイルスやプリオン、など理論的にはこれら全て、混入のリスクがある。

 Aziiらは、ヒト血清アルブミンや第1世代のリコンビナント製剤に、TTVの遺伝子産物が存在していることを報告した。多くの研究者が報告しているように、TTVは一般に世界中どこでもよく見られるが、血液などの非経口で伝播した証拠はない。

 技術の進歩により、凝固因子製剤の製造工程は発達したが、Medical and Scientific Advisory Council(MASAC)によると、依然としてさらに有効的な新しいウイルス除去技術の必要性がある、としている。さらなる純化とウイルス不活化処理過程が、第2世代のリコンビナント製剤の製造工程に加えられている(図2)。TTVはReFactやBeneFIXなどの第2世代のリコンビナント製剤では検出されなかった(表2)。
Medical and Scientific Advisory Council(MASAC)の推奨
 D.ウイルス検出とウイルス除去の改良が凝固因子製剤には必要である
1. リコンビナント第VIII因子製剤よりヒトアルブミンを除去するよう全力を尽くすべきである
2. リコンビナント製剤の製造工程から、ヒトアルブミンとウシアルブミンを除去するよう一層努力をすべきである
3. 現在の技術では脂質皮膜のないウイルス(HAVやヒトパルボウイルスB19)の不活化は十分でない。これらのウイルスや血液供給において同様に伝播する病原体を最小限にするために新たな方法を見つけなければならない
4. 血液供給において、クロイツフェルトヤコブ病(CJD)の病原体や同様のプリオン(変異型CJD)の感染性を完全になくす方法を見つける研究が緊急に必要である
MASAC #141, 2003

 製造工程のさらなる改良により、凝固因子の純化やウイルス不活化の新たな技術、第3世代のリコンビナント第VIII因子製剤の発達をもたらした。ネズミのハイブリドーマ培養から作られた抗体を用いたモノクローナル抗体クロマトグラフィーと違って、Bドメイン欠損(BDD)第VIII因子を精製するために用いたリガンド・アフィニティー・クロマトグラフィーは、動物やヒト由来の物質を含まない合成ポリペプチド・アフィニティー・リガンドを使用している。そのリガンドは、BDDリコンビナント第VIII因子の補因子相互作用部位と違う部位に可逆的に結合する。さらに、製造工程にアフィニティー・カラムを使用することによって、モノクローナル抗体クロマトグラフィー使用時以上の力価の製剤を作ることが可能になった。
 凝固因子製剤は感染症の伝播にほとんど関係ないものになったが、TTVや西ナイル熱、SARSの臨床的重要性に対し関心が持たれていることは、これらの製剤のウイルス学的安全性をまだ注意深く検討する必要性があることを強く示している。製造工程に新たなウイルス除去濾過過程を導入すれば、さらにこういったウイルスの伝播のリスクを下げることになるであろう。

 リコンビナントの技術により、我々はヒトや動物の生の物質を除去し、製造工程から残存する蛋白産物を減らすことができた(表5)。これらの製剤は安全である。なぜならこれらを使用して10年以上感染症の報告は1例もない。次の段階は、これらの薬剤の薬物動態的特性を改良していくことであろう。

 半減期を延ばして生体内で長時間の効果を可能にするように製剤を改良することが、今後の大きな段階になるであろう。さらに将来遺伝子治療が可能になれば、血友病患者に対し根治の希望を与えることになる。
要約
1992年導入されて以来、リコンビナント第VIII因子製剤でウイルスが伝播したとする証拠はない
リコンビナント第VIII因子製剤の製造工程の発達:
最終産物からヒト血清アルブミンを除去
S/D処理によるウイルス不活化
培養液からヒト血清アルブミンを除去
リガンド・アフィニティー・カラム
ウイルス除去のための濾過
可能な限り安全な治療を患者に提供するために、工程の改良は続けて行く必要がある


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