抗体検査義務化の流れをめぐって

服部健司 (群馬大学医学部医学基礎講座)
 ものもらい
 ストレスがたまり免疫能が落ちたのか、右目が脹れて、近くの眼科を受診しました。巧みな手つきで瞼を一転。「ものもらいですね」。ああやっぱり…。「そこに座って」の指示に従うと、細隙灯顕微鏡検査、その次は眼圧測定。それから視力測定という段におよんで、ものもらいと直接関係のない検査はまたの機会にお願いしたい、と申し入れました。
 医療とインフォームド・コンセント
 医療を受ける権利が市民には法的に保障されており、医療者には、その求めに応じて適切で良質な医療を提供する義務があります。けれども、医療行為は単にその利益性だけからは正当とされません。ときに侵襲的でリスキーな行為を身に受ける患者本人への情報の開示と説明、そして当人の非強制的な同意こそが、医療行為を正当なものとする最低要件であることは、今や社会に広く受け入れられた理解です。それは、患者にとってよかれと善意でおこなった医師の医療行為が法廷へ幾度も訴えられるという歴史が、数十年をかけ、インフォームド・コンセントという枠組みに結実したことによります。
 抗体検査のルーチン化?
 さて、検査一般がすでに医療行為だとすれば、HIV抗体検査でも、インフォームド・コンセントが求められるのがスジでしょう。米国公衆衛生局は80年代からすでに勧告に「ルーチン・カウンセリング&ボランタリー・テスティング」というコピーを散りばめてきました。けれども、いくつかの国々と同様、本邦の医療現場はそれとはまるで違った方向に進もうとしているかのようです。良質な医療サービスへ向けて一部の医療機関が真摯な取り組みを日々続けているその陰で、無断検査や半強制的検査の事例、陽性と判ると診療拒否や説明なしに転院措置といった事例の報告が後を絶ちません。そんな状況下で、入院時や術前時、妊婦検診時の抗体検査のルーチン化、全数検査化、義務化の必要性と正当性とが声高に主張されています。
 ヒューマンな語り
 その理由は何でしょうか。それは第一に、受検者にとっての利益だ、と言われてきました。ここに興味深い記録があります。青森県を筆頭に、妊婦検診で公費負担での抗体検査が推進されだしたのは90年代前半からですが、当時の厚生事業研究班はその報告書の中でそのメリットを四つ挙げています。つまり、母子感染予防と出生児への早期ケアの可能性、院内感染予防、一般家庭へのHIVの浸淫度(報告書中の文言!)を知る上で有用な疫学データ収集――。けれども当時は母子感染の成立機序さえ分かっていなかったのです。ですからこうした好い事尽くめのヒューマンな語りを額面通りに受け止めるわけにはいきません。データ収集を除くと実質的にその意味したところは所詮、妊娠中絶勧奨であり転院措置だったわけです。わたしたちは耳に優しい語りとその裏の動機とのズレの事実を忘れるべきではありません(無処置でも60-70%は感染しないという事実が伝えられず、感染率の高さと悲劇的な予後ばかりが強調されていたという事実も)。 
 もちろん後に、あのプロトコールによって垂直感染率が著しく抑制されることが明らかにされたのですが。この報告後、妊婦検診での抗体検査のルーチン化の声は一層大きくなりました。
 技術的可能は「 義務」を導かない
 母子感染率を著しく低くする治療技法が確立されたことは喜ばしいことです。が、このことが検査のルーチン化ないし義務化をただちに正当に導くとは考えられません。まずなにより検査が利益的ならば、それを事前に説明すればよいまでの話です。当人が本当だと納得すれば進んで受検するでしょう。
 しかしそれ以前に、陽性だと判明するとそれ以降の診療拒否をする、十分な説明もせずに拠点病院に送る、といういわば患者選別的な色合いをなくすことが、まず第一だと考えます。医療技術や体制上の不備、施設のポリシーゆえに陽性者に対して医療提供が出来ないというのなら、その旨や当の施設で可能な診療や、陽性だった場合の治療上のオプションなどを検査 (できれば診療受付) 前に明示的に周知しておいてほしいと思います。そうした情報を得た上で患者はその医療施設を利用するかどうかを決めることができたらよいと思うのです。
 それでは、陽性でも当の施設で診療を引き受ける体制があるなら、検査は自動化、ルーチン化されてよいでしょうか。この点について、事前の説明とカウンセリング無しになされた陽性告知がいかに心的外傷になり告知受容を困難にするかに関する、現場からの数多くの報告があります。
 それに、現在の母子感染予防のための投薬プログラムの中長期的な安全性は確認されているのでしょうか。医療に完全や絶対がありえないとすれば、感染率低下という喜ばしい情報の下にさまざまなリスクを隠蔽した仕方で、検査(と服薬)を推し進めるのはどんなものでしょう。「あなたのためです」「皆さんお受けになっています」「そういう決まりになっています」という語りで、インフォームド・コンセントの理念が骨抜きにされることもおそれます。
 他者危害の原則
 抗体検査の義務化を推進しようとする立場の方々の最後の切り札は、実のところは受検者当人の利益などではありません。そうした方々は、「他者危害の原則」という(医学的でなく)道徳的な語りを持ち出されます。他者に危害を及ぼさないなら人はどんな(自分にとって不利益な)ことでも自由にしてよろしい。けれどもHIVを他人にうつすことは危害である。児や医療者への感染という危害を防ぐためには検査の義務化も必要だ。それは本人の自己決定権やプライバシー権より優先する。妊婦や手術予定者には抗体検査を拒否する権利、自分のHIVステータスを知らないでいる自由などない――。
 なぜ妊婦と手術予定者だけが?
 こうした主張は一見正しい。けれども報告によると本邦の新規感染者の圧倒的多数の感染経路は性行為です。とすると、他者危害の原則から、妊婦らへの抗体検査の義務化の必要性と正当性を説く方々が、性行為を行う国民一般に対する検査の義務化を提唱しないのは何故でしょう。直接的な実証データはありませんが、過去30年に無防備な性行為をした/している(つまり陽性の可能性のある)国民がそんなに少数派だとは思えません。が、そのうち一体どけだけの人が検査を受けているでしょうか。
 他人に感染させることを危害だとみなすなら、性行為による感染も医療の場における感染も等しく危害であって、その点で、また予防の必要性においてどんな差異があるのでしょう。必ずしも常に感染対策をして性行為しているとはいえない国民一般に対して検査の義務化の是非が論じられる気配がないまま、もっぱら妊婦や手術予定者らに対する全数検査化の議論ばかりが押し出されてくるどんな理由があるのでしょうか。母親が児にうつすことは絶対に許されない不道徳かつ不幸だけど、おとなが他人に性行為でうつすことはそれほどでもないということなのでしょうか。医療者は市民より護られなければならない特権的存在なのでしょうか。また、人は自分の生体情報、とくに医学的生物学的危害可能性(遺伝子も含めて)についてどれだけ知っていないと、道徳的非難の対象となるのでしょう。抗体検査のルーチン化、義務化を急いで整備する前に、慎重に考えなければならないことが、まだまだあると思うのです。(hattorik@med.gunma-u.ac.jp) 【END】

世界のエイズ

エイズは世界で第4番目の死因
原題: NewsAIDS now fourth biggest killer worldwide, report says
著者: Alex Vass, BMJ
出典: BMJ 2001;323:1271 ( 1 December )
ウェブ: http://bmj.com/cgi/content/full/323/7324/1271/c
■ 世界保健機構と国際連合の合同報告が2001年の世界エイズデーに発表された。これによるとエイズはサハラ砂漠以南のアフリカの死因第1位であり、世界全体では第4位になっている。
■ エイズの流行は20年前に始まり、これまで世界で6000万人が感染したが、現在は4000万人の感染者が生存している。報告によると現在、最も感染拡大のスピードが早いのは東ヨーロッパとロシアである。この地域では2001年だけで250,000人の新規感染が発生したと推定されている。ロシアでは過去3年間に感染者は15倍に増加してしまった。これらのほとんどは注射薬使用に関連したものである。
■ サハラ砂漠以南のアフリカが最大の流行地である。報告書によるとこの地域では2001年だけで230万人が死亡し、340万人が新規に感染した。またこの地域は女性の感染者数の方が男性を上回っている唯一の地域である。現在生存中の感染者数は2800万人で、平均の感染率は8%である。またほとんどの感染者は自分が感染していることを知っていないという。
■ 「エイズ流行によって、社会全体の福祉、開発の進行、社会の安定性が歴史上にないほどの規模で驚異にさらされている。最流行国では2020年までにGDPの20%を失ってしまう可能性がある。平均余命の急激な低下はすでに始まっている。エイズがなかったことに比べると、サハラ砂漠以南のアフリカの平均余命は62才であるが、現在は47才になっている。」と報告書に記されている。
■ 世界でも最も人口が多い国々があるアジアや太平洋地域でも、感染率は急激に上昇しており、特に注目する必要がある。中国では2001年の前半6ヶ月だけで感染者数は前年より67%増加した。インドの感染率はおよそ1%であり、386万人の感染者がいると推定されている。
■ 中には進歩もある。カンボジアとタイでは大規模な予防プログラムが流行に歯止めをかけている。
■ イギリスの代表的なエイズ慈善団体は、世界エイズデーをHIV感染者・エイズ患者に対する差別偏見に反対する記念日にしようと言う運動を始めた。「全国エイズ・トラスト」は「エイズに偏見を持っていますか?」という新しいマスコミキャンペーンを行った。この中で、テレンス・ヒギンス・トラストという団体は、HIV感染者の5人に1人が差別を受けた経験があると報告した。

世界エイズ基金に19億ドル 今春から援助金配分へ

 エイズ、結核、マラリアの撲滅を目的に、アナン国連事務総長の提唱で昨年創設された世界基金の事務局は29日、これまでに日米欧などから約19億ドル(約2536億円)の支援が集まったことを明らかにした。今春から援助金の配分などに本格的に取り組む。日本は昨年7月、同基金に2億ドルを拠出した。
 同基金の理事会(先進国、開発途上国、民間企業の代表ら18人で構成)が28、29の両日、ジュネーブで初会合を開き、今後の活動予定をまとめた。それによると、基金から支援を希望する国は、エイズなどの治療や予防に関する計画を3月中旬に事務局に提出。理事会がそれぞれの計画の内容を検討した上で、4月中に援助金の支給の可否や金額を決定、すぐにも分配を開始する方針だ。[時事通信 2002/01/30]

 国内ニュース

HIV除去体外受精で出産

赤ちゃんに感染なし確認 新潟大が成功
■ 新潟大病院でエイズウイルス(HIV)感染者の夫の精液からウイルスを除去し、体外受精で妊娠した妻が十月末に男児を出産。赤ちゃんはHIVに感染していないことが確認された。
■ 同大医学部の田中憲一教授と、ウイルス除去法を共同開発した荻窪病院(東京)、慶応大医学部(同)などが十五日、発表した。
■ 研究グループによると、人工授精による出産例は国内外にあるが、安全性がより高いとされる体外受精が成功し、出産後の赤ちゃんにも感染がなかったことをほぼ確実に証明できた例は、世界でも初めて。赤ちゃんへの感染の確率は百万分の一未満だという。
■ 国内では今年夏、鳥取大(鳥取県米子市)でHIV感染の夫の精液からウイルスを除去して人工授精した妻が出産、母子とも感染していないことが確認されている。
■ グループによると、体外受精を行ったのは東日本に住む三十代の夫婦で、今年二月中旬に、グループの医師らが新潟大で実施した。出産後は母子ともに健康で、母親は末しょう血、赤ちゃんは、臍帯血(さいたいけつ)を遺伝子レベルで調べ、HIVが存在しないことを確認した。
■ ウイルスの除去は、試験管内に「パーコール」という粉末を溶かした液と一緒に精液を入れて遠心分離機にかけ、精子と、不純物、リンパ球、ウイルスを分離。その後、取り出した精子を別の容器の培養液に入れ、活発な精子だけ採取しHIVのないことを再確認して体外受精した。
■ グループは東日本在住の別の夫婦一組にも同様の体外受精を新潟大で実施しており、来年春に出産予定。このほか、慶応大病院や杏林大病院でも三組の夫婦に実施する計画があるという。
■ 荻窪病院の花房秀次部長は「ウイルスの除去には完ぺきを期し、安全性を確認できた。今後も続けていきたい」と話している。
【解説】エイズウイルス(HIV)を除去した精子を使った出産例は、人工授精によるものがイタリアで約二千例の実績があり、国内でも鳥取大での成功例がある。だが、完全にHIVが除去されたのか安全性を疑問視する考え方もあり、米国では実施されていない。一方、体外受精には人工授精にない利点がある。
 今回の体外受精は、HIVを除去するのに使用する器具の改良など従来の方法を徹底的に見直し、遠心分離法と、活発な精子のみを取り出す「スイムアップ法」と呼ばれる手法を組み合わせた。
 受精後のウイルスの確認も、抗体検査だけでなく、遺伝子解析でDNA、RNAともに全く存在しないことを確認。感染確率を百万分の一未満にすることができたという。
 HIV感染者やエイズ患者は、健康人に比べ精子の状態が悪いこともあるが、人工授精では成功に至らないケースでも体外受精なら妊娠の確率は高まると考えられる。さらに、精子を直接子宮に入れる人工授精と異なり、受精後もウイルスをチェックできる。
 C型肝炎など、エイズ以外の感染症の親子感染を防ぐ意味でも、今後の研究が期待される。[共同通信 2001/11/16]

国内ニュース

母子感染防止に効果

抗HIV剤投与と陣痛前帝王切開
■ HIV(エイズウイルス)に感染した女性の安全な出産に道――。HIVの母子感染防止に有力な方法があることが、全国の産婦人科・小児科を対象にした調査で分かった。妊婦と出生児への抗HIV剤の投与と、陣痛前の帝王切開を組み合わせる方法で、母子感染の可能性があった51例すべてで感染を回避できたという。厚生労働省から調査の委託を受けた研究グループは「現時点でHIVの母子感染を予防するには、この方法が重要」としており、患者や医療機関にとって一つの指針となりそうだ。
■ 調査したのは、戸谷良造・国立名古屋病院産科医長、北村勝彦・横浜市立大医学部助教授(公衆衛生学)らのグループ。5,150の医療機関を対象に、妊婦へのHIV抗体検査の実施状況▽HIV感染妊娠の状況――などについて調べた。
■ その結果、HIV感染の女性の妊娠は87年から217例、出産が122例あった。うちHIVの母子感染率は、自然出産が54.5%と高率だったのに対し、帝王切開による出産は2.1%と低率だった。また、妊婦・出生児への抗HIV剤投与と、陣痛前の帝王切開を組み合わせた出産51例では、HIVの母子感染はゼロだったことが分かった。
■ 一方、母子感染防止対策の前提となる抗体検査の実施率は、全国平均で79.7%で、昨年度より約6.5ポイント上昇していたが、佐賀県での実施率がわずか0.1%と、地域によってHIV感染妊娠に対する認識に大きな差があることも分かった。これらの結果は、31日から高松市で始まる第60回日本公衆衛生学会で発表する。[毎日新聞 2001/10/31]

 国内ニュース

同性間性的接触で検討会

エイズ予防対策
■ 厚生労働省の「同性間性的接触によるエイズ予防対策に関する検討会」(座長=市川誠一神奈川県立衛生短大教授)の初会合が1月25日に開かれた。国内のHIV感染者、エイズ患者の増加が続く中、同性間性的接触はHIV感染経路として最も多く、全体の約半数を占めている。
■ 検討会は、公衆衛生学などの学識経験者およびゲイ、バイセクシャルに対するエイズ予防活動を行うNGOの代表者で構成。
■ 冒頭、挨拶した厚労省の麦谷疾病対策課長は、NGO参加拒否問題を念頭に「お上は信用できない、という話もあるが、江戸時代と違い、今の役人は普通の人間。官民の垣根を取り払って一緒にやっていきたい」と挨拶。実効ある対策を話し合い、6月をメドに「工程表」を作成、必要な対策を平成15年度予算に反映したい考えを述べた。
■ 意見交換では、NGO代表委員が、エイズを含むSTD全般を診療でき、ゲイが利用しやすい診療所や、主要都市におけるゲイ向け拠点保健所の整備を要請。一方、エイズ患者の診療に留まらず、バーなどの出会いの場で、NGOとともにコンドーム配布やHIV検査会を開いている内海 眞委員(国立名古屋病院)は、safer sexへの行動変容を支援するため(1)正確な情報の提供、(2)人材育成、(3)科学的リサーチ―の重要性を訴えた。
■ このほか、保健所など保健医療の専門家から、エイズなどのSTDはごく普通の生活の中で起こり得る「生活習慣病」であるという認識を持つことが必要だとする意見も出された。(4059号掲載)[日本医事新報 2002/02/14]

HIVのカウンセリング・検査・紹介のガイドライン

<改訂版>

原題: Revised Guidelines for HIV Counseling, Testing, and Referral
出典: MMWR November 9, 2001 / Vol. 50 / No. RR-19
ウェブ: http://www.hivatis.org/atisnew.html

妊婦のHIVスクリーニング検査に関する推奨

<改訂版>

原題: Revised Recommendations for HIV Screening of Pregnant Women
ウェブ: http://www.cdc.gov/hiv/ctr/
■ アメリカではこれまでHIVカウンセリング・検査・紹介については、1994年のCDCのガイドラインが使われてきました。2001年11月9日の改訂では、この間の予防や感染者の治療とケアの進歩に基づいています。つまり、1)HIVの予防カウンセリングモデルが危険行動の減少に役立つことを提示したこと、2)HIV感染症や日和見感染症に有効な治療法があること、3)母子感染の予防に有効な治療法があること、そして、4)新しい検査法の進歩などです。当然ながら、検査の秘密厳守、匿名で自発的な検査、インフォームド・コンセントの必要性、クライエント自身の危険性に焦点を当てたHIV予防カウンセリングとの組み合わせることが大切です。[TAKATA]

小児HIV感染者への抗HIV薬使用に関する指針

2001年12月14日版

原題: Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in
Pediatric HIV-Infection
ウェブ: http://hivatis.org/trtgdlns.html#Pediatric
■ HIV感染症の病態と抗HIV薬の使用法の原則は、大人でも子供でも共通しているわけですが、子供の場合には特別に考慮しないといけない事項があります。それは、1) 多くの子供達が周産期に感染していること、2) 母子感染予防のために薬剤にすでにさらされていること、3) 周産期感染の診断・評価のむずかしさ、4) ことに新生児の場合の免疫能の評価が違うこと、5) 年令によって薬物代謝臓器の成熟度が異なり、抗HIV薬の薬物動態のパラメータが違うこと、6) 周産期HIV感染によって臨床像やウイルス学的な状態が異なること。とくに免疫系がまだ未成熟の段階でHIVに感染すること、7) 治療のアドヒアランスが大人とは異なること、などです。28頁の薬物情報が付録になっています。[TAKATA]

周産期HIV感染予防のための指針

2002年2月4日版

原題: Public Health Service Task Force Recommendations for the
Use of Antiretroviral Drugs in Pregnant HIV-1 Infected Women
for Maternal Health and Interventions to Reduce Perinatal HIV-1
Transmission in the United States
ウェブ: http://hivatis.org/trtgdlns.html#Perinatal
■ アメリカ保健福祉省の検討会により、周産期予防のためのガイドラインが改訂されました。PDF版で302KBあります。付録として「妊婦への抗HIV薬の安全性と副作用」という文書も、同じ改訂日で提供されています。こちらは、PDF版で127KBとなっています。[TAKATA]

HIV感染患者におけるヌクレオシド毒性の

マーカーとしてのミトコンドリア DNA の変化
原題: Changes in Mitochondrial DNA as a Marker of Nucleoside
Toxicity in HIV-Infected Patients
著者: H.C.F. Cote and others
出典: N Engl J Med 2002; 346 : 811 - 20 : Original Article
【背景】  ヌクレオシドアナログは,ヒト DNA ポリメラーゼ γ を阻害することによりミトコンドリアに毒性作用を引き起す可能性がある。この毒性作用は,血清乳酸量の増加から,致死の可能性のある乳酸アシドーシスにまでに及ぶ場合もある。われわれは,症候性ヌクレオシド誘発性高乳酸血症患者の末梢血細胞における,核内 DNA に比較したミトコンドリア DNA の変化を検討した。
【方法】 全 DNA は血液細胞から抽出した。核内遺伝子とミトコンドリア遺伝子はリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応法で定量した。3 群を検討した:ヒト免疫不全ウイルス(HIV)非感染対照群 24 例,抗レトロウイルス薬治療を受けたことのない無症候性HIV 感染患者群 47 例,抗レトロウイルス薬を受け,症候性高乳酸血症を呈した HIV感染患者 8 例。最後の群の患者については,抗レトロウイルス療法開始前,治療中,治療後にわたり経時的に検討した。
【結果】 症候性高乳酸血症は,ミトコンドリア DNA の核内 DNA に対する比の顕著な減少と関連しており,この比は,治療期間中,HIV 非感染対照群での比より平均 68%低く,抗レトロウイルス薬治療を受けたことのない HIV 感染無症候性患者での比より平均43%低かった。抗レトロウイルス療法の中断後,ミトコンドリア DNA の核内 DNA に対する比に統計学的に有意な増加がみられた(p=0.02)。経時的に追跡した患者において,ミトコンドリア DNA の減少は静脈内乳酸量の増加に先行した。
【結論】 ミトコンドリア DNA 量は,症候性ヌクレオシド関連高乳酸血症患者において有意に減少し,この作用は治療中断により回復する。
<コメント> 乳酸アシドーシスが注目されています。致死的な副作用になることがわかったからです。ミトコンドリアは細胞の中にある小器官で、細胞の中のエネルギー工場です。糖を燃やしてATPを作ります。抗HIV薬である核酸系の逆転写酵素阻害剤が、ミトコンドリアのDNAを減らします。その結果ブドウ糖がうまく酸化されず、もえくずが嫌気的な解糖経路となり、乳酸がたまり、乳酸アシドーシスに導かれるという順序です。
 この論文ではDNAの量を、細胞の核とミトコンドリアに分けて測定し、その比率がどうなるかを検討しました。HIV非感染者よりも、治療前のHIV感染者でミトコンドリアのDNAがそもそも低いとのこと。ヌクレオシド系逆転写酵素阻害剤を使うと、もっと低下しました。ミトコンドリアのDNAと乳酸の値がよく反映されていて、薬をやめてしまうと回復する、というものでした。

HAART時代のエイズ関連肺疾患
原題: Pulmonary Manifestations of HIV Infection in the Era of
Highly Active Antiretroviral Therapy
著者: Armand J. Wolff et.al.
出典: Chest. 2001;120:1888-1893.
ウェブ: http://www.chestjournal.org/cgi/content/abstract/120/6/1888
【研究の目的】 大学病院の呼吸器救急サービス部門でHAART導入後のHIV関連呼吸器疾患の種類が変わったかどうかを調査すること。
【デザイン】 遡行的なカルテのレビュー。
【設定】 三次救急を扱う大学病院。
【患者】 1993年1月1日から1995年12月31日までの第一期と1997年7月1日から2000年6月30日までの第二期に、呼吸器救急サービス部門に紹介されてきた全てのHIV感染患者。
【介入】 外来および入院患者のカルテから、患者背景、CD4細胞数、ウイルス量、HIV感染がわかってからの期間、日和見感染の既往、そして最終診断を調査した。
【結果】 HAART導入後にはカリニ肺炎が減少したが、HAART後には細菌性肺炎と非ホジキン・リンパ腫が増加した。HAARTはCD4細胞数とは独立した形で、カリニ肺炎の予防効果がある(オッズ比(OR)は0.37; 信頼区間(CI)は0.16-0.89)。HAARTを受けている患者の細菌性肺炎の危険性は、ORが2.41(CIは1.12-5.17)であり、非ホジキン・リンパ腫の危険性はORが15.11(CIは3.14-28.32)であった。カリニ肺炎の病歴がある患者では、細菌性肺炎の危険性もORが2.14(CIは1.13-4.04)に増加した。またサイトメガロウイルス感染症の既往があると、非ホジキン・リンパ腫の危険性のORが6.0(CIは1.27-28.32)に増加した。
【まとめ】 HAART時代に入って呼吸器救急サービス部門で見られるHIV関連呼吸器疾患の種類は、顕著な変化が見られている。
<コメント> 強力な抗HIV薬の併用療法によって、HIVの効果的な抑制とCD4細胞数の回復が得られます。免疫不全による日和見感染症は本当に減るのでしょうか? 実際にはカリニ肺炎の減少はオッズ比が0.37と予想ほどではありませんでした。エイズのリンパ腫発生には抑制効果がわずかでした。

ネビラピンを含む抗HIV療法と

抗動脈硬化の脂肪プロフィール
原題: Nevirapine-containing antiretroviral therapy in HIV-1
infected patients results in an anti-atherogenic lipid profile
著者: van der Valk M et al:
出典: AIDS 15: 2407-2414 (2001)
【背景】 HIV-1感染治療におけるプロテアーゼ阻害薬を含む抗レトロウイルス療法は、患者に冠動脈疾患のリスクを増加させると考えられるtriglycerideとLDL-cholesterolの上昇を引き起こす。我々はAtlantic studyに含まれる初めて治療を受ける患者の集団における脂質とリポタンパク質のprofileを報告する。この試験は、stavudine+didanosineに非核酸系逆転写酵素阻害剤nevirapine、プロテアーゼ阻害剤indinavir、核酸系逆転写酵素阻害剤lamivudineのいずれかを無作為に加えた治療法を行った患者で比較している。
【方法】 脂質とリポタンパク質は0週、6週、24週にプロスペクティブに得られた凍結保存血漿サンプルを用いて測定した。
【結果】 我々は、24週時点のnevirapine治療患者(n=34)において、HDL-cholesterol(49%) apolipoprotein Al(19%)、lipoprotein Al(38%)、HDL particle size(3%)の著しい上昇を観察した。Lamivudine(n=39)とindinavir(n=41)を服用した患者では、これらのパラメーターの変化はかなり小さかった。HDL-cholesterolはnevirapine 群とindinavir投与群において上昇したが、総cholesterolに対するHDLの比率においてnevirapine 群だけが有意に減少(14%)した。Multivariate liner regression modelはbaselineと治療中のCD4細胞数および血漿中HIV RNAに対して適合し、nevirapineを含む治療法を無作為に選択しているので、HDL-cholesterolと他のHDLに関与したパラメーターに見られた変化は十分有意なものであった。
【まとめ】 Stavudine +didanosine+nevirapineで治療したHIV-1感染患者において、他の治療でみられる冠動脈疾患に対するリスクをシャープに下げる脂質およびlipoproteinの変化を観察した。もしさらに大きな試験で確認されたら、これらの知見はHIV-1感染治療に対する最初の選択に対して影響を与え、冠動脈疾患予防に対するHDL-cholesterol上昇をターゲットとしたアプローチへ導くかもしれない。
<コメント> 最近HIV感染症あるいはその治療薬と脂肪・糖質代謝異常が注目されています。脂質プロフィールが動脈硬化パターンだったら、動脈硬化病変が起こり、HIV感染者はエイズでは死なないで、みんな若くして心筋梗塞になってしまうのでしょうか? 1例報告はありますが、まだ多数・長期観察のデータから結論は出ていません。それにしても不気味ですね。

アメリカの医療従事者のエイズ
原題: Surveillance of Health Care Workers with HIV/AIDS
ウェブ: http://www.cdc.gov/hiv/pubs/facts/hcwsurv.htm
■ HIVは血液介在性の感染症でもあることから、感染者が集まる医療機関に勤務するものは職業上でHIVに曝露される機会が多い。このためアメリカのエイズ患者の届け出を受けつけているCDCでは、医療従事者のエイズに注目して集計し定期的な情報開示をしている。
■ 2001年6月30日までに届けられた成人エイズ患者のうち、23,473人が医療機関に勤務していた。これは職業情報が記載された461,495人のなかの5.1%にあたり、医療従事者に多いという傾向はない。なお322,537人については医療機関に勤務していたかどうかわからない。
■ 職種がわかっているものは22,000人(94%)で、内科医1,746人、外科医117人、看護師5,105人、歯科従業者482人、その他のパラメディカル453人、検査技師3,046人、セラピスト1,042人、看護助手5,222人であった。この他は病院のメンテナンス作業者や事務職員である。これまでに全体の73%にあたる内科医1,374人、外科医87人、看護師3,791人、歯科従業者378人、パラメディカル315人が死亡したと報告されている。
■ これとは別に、針刺し事故など職業上の曝露後にHIV抗体が陽性になった記録がある医療従事者は57人いる。このうち26人が発病した。職種では検査室の職員(特に16人は臨床検査室で働いていた)が19人、看護師24人、内科医6人、外科の補助者(surgical technician)2人、透析従事者(dialysis technician)1人、呼吸セラピスト1人、看護助手1人、死体処理職員1人、ハウスキーパー2人であった。
■ 曝露の内容としては、経皮的な刺傷あるいは切傷が48人、皮膚粘膜への付着が5人、それらの両方が2人、詳細が不明なものが2人である。曝露源が血液であったものが49人、研究室のウイルス濃縮作業が3人、血液が混入した体液が1人、そして由来不明の体液が4人であった。
■ さらに職業上での曝露があるけれど、曝露前後でHIV抗体が陽性化したのかについては記録がない、そしてそれ以外にHIVに感染する危険因子を否定しているHIV/エイズの医療従事者が137人いる。職業上の曝露でHIVに感染した医療従事者の正確な実数は不明である。
■ 職業上の感染の予防についての情報は、CDCの"Preventing Occupational HIV Transmission to Healthcare Personnel(2001年9月刊)"というお知らせを参照のこと。
<コメント> 日本の厚労省のエイズサーベイランスの内容は、プライバシー問題が理由でかなり制限を受けたものになっています。アメリカでは医療者の事故については、CDCに登録サイトをもうけ自発的な届け出をもとに、定期的にこのような記事が作成されて発表されています。

ジスロマック:エイズの非定型抗酸菌症 
(MAC症)に承認
◆ エイズのMAC症治療のために、ジスロマック錠600mgの剤型が特にHIV感染症用に認可されました。予防に使えるところがポイントです。一般名はアジスロマイシン、英語名はZithromac、略号はAZM、発売はファイザー製薬です。詳細は製品情報概要(ドラッグ・インフォメーション)をご覧下さい。
【効能・効果】 進行したHIV感染者における播種性マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症の発症抑制及び治療
用法・用量】 発症抑制:成人にはAZMとして、1200mgを週1回経口投与する。治療:成人にはAZMとして、600mgを1日1回経口投与する。
【用法・用量に関連する使用上の注意】1) 治療に関する海外臨床試験に置いてエタンブトールとの併用効果が示されているため、治療の際にはエタンブトール(1日15mg/Kg)と併用すること。2) 治療に際してはエタンブトールに加え、医師の判断によりMACに対する抗菌作用を有する他の抗菌薬を併用することが望ましい。3) 本剤を使用する際には、投与開始時期、投与期間、併用薬等について国内外の学会のガイドライン等、最新の情報を参考にし、投与すること。
【相互作用】 1.併用注意 制酸剤(水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム)、ワルファリン、シクロスポリン、メシル酸ネルフィナビル。2.他のマクロライド系薬剤において、相互作用が報告されている。尚、本剤のチトクロームp450による代謝は確認されていない。
 テルフェナジン、アステミゾール、シサプリド。テオフィリン、ミダゾラム、トリアゾラム、カルバマゼピン、ヘキソバルビタール、フェニトイン。ジゴキシン。エルゴタミン。リファンピシン。
【副作用】 数字上では546例中440例に副作用が認められ、発現率は81%です。内容は下痢、腹痛、嘔気等。臨床検査値異常などです。
【承認条件】 今後、再審査機関の終了までは、進行したHIV感染症における播種性マイコバクテリウム・アビウムコンプレックス(MAC)症の発症抑制及び治療の目的で国内で使用される症例に関しては、可能な限り前投与症例を市販後調査の対象とし、本剤が多剤と併用されることを踏まえて、臨床効果、副作用、併用薬、及び薬物相互作用等に関してデータの収集を行い、再審査の申請資料として提出すること。

抗HIV薬の最長処方日数は90日に
◆ 2002年4月の療養担当規則改訂で「慢性疾患の増加に伴う投薬期間の長期化を踏まえ、薬剤投与期間に係る規則を原則、廃止する」ことになりました。例外としては麻薬、向精神薬、薬価基準収載後1年以内の医薬品があります。なお「投薬量は、予見することができる必要期間に従ったものでならないこととし、別に厚生労働大臣が定める内服薬および外用薬ごとに一回十四日分、三十日分または九十日分を限度とする。」となっています。広大病院の現状では、HIV RNAが検出限界以下の人ではほとんどが60日処方で、HIV RNAが検出される人、CD4細胞数が200未満の人では30日処方が一般的です。

エイズ治療薬研究班の活動内容

班長 東京医科大学病院 臨床検査医学科 主任教授 福武勝幸

〒160-0023 東京都新宿区西新宿 6-7-1

TEL 03-3342-6111(EXT5086) FAX 03-3340-5448

<薬剤耐性HIVの検査>

http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/project/regist/regist-1.pdf
◆ 抗HIV薬への遺伝子型ならびに表現型の薬剤耐性検査です。研究費を使って調べ、その成績を比較するものです。研究に協力するかたちなので無料です。

<C型肝炎に対するペグ化インターフェロンとリバビリン併用>

http://iijnet.or.jp/aidsdrugmhw/
 厚生労働省エイズ治療薬研究班では、HIV感染あるいは非感染の血友病の患者様に対する、PEGインターフェロンα2bとリバビリンの併用による治療研究を始めました。週一回の自己注射によるインターフェロン投与とリバビリンの毎日の内服による治療で、日常生活を維持しながら慢性C型肝炎の治療を行う計画です。

<薬剤供給と情報提供システム>

http://www.iijnet.or.jp/aidsdrugmhw/text/1aids/aa/1_aa.htm
 国内未発売の抗HIV薬、日和見感染症治療薬、抗腫瘍剤が無料で入手できます。2002年度から事務局機能の充実のために、研究班の文書の回収、整理、保管をパレクセル・インターナショナル社へ委託しています。

【事務局】

パレクセル・インターナショナル株式会社

エイズ治療薬研究班事務局担当者

〒101-0054 東京都千代田区神田錦町3-20 錦町安田ビル

TEL 03-3518-6022 FAX 03-3518-6014

第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議
7th International Conference on AIDS in Asia and Pcific region

期日: 2003年11月27日から12月1日
会場: 神戸国際会議場ほか
◆ 第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議(7thICAAP)が開催されることが決まりました。主催は第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議組織委員会で、共催は国連合同エイズ計画(UNAIDS)、アジアエイズ関連NGO連合(7-Sisters)、日本エイズ学会、財団法人エイズ予防財団です。組織委員長は岸本忠三阪大総長、副委員長は阪大保健体育部の吉崎和幸教授、事務局長は京大の木原正博教授、事務局次長は慶応大の樽井正義教授が担当されます。
◆ アジア地域のエイズの増加振りは非常に深刻です。しかし景気も日本社会のエイズに対する関心も冷え切っています。これを乗り越えて行くには、広く社会全般からの盛り上げが大切になってくるでしょう。アジア太平洋地域の政治、教育、医療、科学、宗教など広範な人々がエイズに立ち向かう会議ができるように、皆さんのご協力をお願いしたいと思います。[TAKATA]

AIDS文化フォーラムin横浜
http://www.yokohamaymca.org/AIDS/
◆ 「AIDS文化フォーラムin横浜」は、1994年に横浜で開催された「第10回 国際エイズ会議」をきっかけとして開催されました。以降、毎年8月に開催され、今回で8回目(2001年)を迎えます。行政と医療関係中心の国際会議に対して、市民による、市民のための手作りのフォーラムとして、行われており、活動発表の場、交流を深める場、情報交換の場として全国からNGO・NPOが集まります。

日程: 2002年8月2日(金)〜4日(日)
場所: かながわ県民センター
(かながわ県民活動サポートセンター)
入場: 無料
テーマ: 「つながる つながる」
主催: 「AIDS文化フォーラムin横浜」組織委員会
共催: 神奈川県(予定)
後援: 横浜市、川崎市、横須賀市、相模原市、
横浜商工会議所、神奈川県教育委員会

第16回日本エイズ学会学術集会・総会
会長挨拶

『エイズ克服にむけての連携を目指して』

第16回日本エイズ学会学術集会・総会

会長 岡本 尚

(名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子遺伝部門教授)
◆ エイズの原因ウイルスであるHIVが1983年に発見されほぼ20年が経とうとしています。病気が見いだされて病原体の発見に至るまでの期間は過去の例に見ないほど驚くべき短期間でもありました。この間に、診断法、治療法、分子レベルでの病態解明、社会医学的対応、そして行政対策など、医学・医療の側からのエイズ対策にはめざましいものがあります。最近のエイズ研究の進展は、医学はもとより臨床医学の分野においてもめざましく、そのためエイズの治療に一条の希望の光が見えてきました。また、基礎科学に対しても、エイズ研究を基盤として多くの学問領域の新分野が開拓され、エイズ研究の波及効果の規模は、がんや脳研究に匹敵するほどになりました。我が国においても、16年目を迎える本学会を母胎として多数の独自な研究が萌芽し、更に大きく発展しつつあります。
◆ しかしながら、その一方で、エイズは今も世界各地で拡大と問題の深刻化を招いていることは広く知られている通りであります。HIV感染者の数は増加の一途をたどるばかりで、昨年1年間で530万人が新たにHIVに感染し、全世界でのエイズによる死亡者はすでに2000万人を突破しました。わが国も例外ではなく、多少の増減はあるものの、ここ数年の増加傾向は相変わらず続いています。今やエイズは、特殊な疾患ではなく、とりわけ性的に活発な健康な若年の男女を標的にした致死率の極めて高い恐るべき感染症として、一般の人々が憂慮すべき疾患へと変貌しました。このような状況を考えると、一般への啓蒙こそがもっとも有力なエイズの治療法であり予防法でもあるといえます。すなわち、エイズが我々人類に投げかけている課題は、単に基礎・臨床医学の研究者のみでは解決できないことはむしろ当然であり、医療・教育・行政・社会啓蒙の現場に直接携わっている方々も含めた多くの意識ある人々の結集と連携とが不可欠であります。
◆ このような中で、第16回日本エイズ学会学術集会・総会に全国から研究者、臨床医、保健担当者、など普段の活動の場を異にする会員が一堂に会し、発表・討論を通して学際的な交流を持つとともに連帯を深めることは、極めて重要な意義を持つものであります。
◆ 今回の第16回日本エイズ学会学術集会・総会を下記の要領で開催いたします。各方面からの多くのご協力とご参加と、そして熱心なご討論をお願いいたします。

会期: 2002年11月28日(木)〜30日(土)(3日間)
会場: 名古屋国際会議場
〒456-0036 名古屋市熱田区熱田西町1番1号
事務局: 名古屋市立大学医学部分子医学研究所分子遺伝部門
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町川澄1
ウェブ: http://www.lapjp.org/aidsgk16/

HBV・HCV・HIVの職業上曝露への対応と

曝露後予防のためのCDCガイドライン
翻訳: 矢野邦夫
出版社: メディカ出版(2001年11月) \2,400
原題: Updated U.S. Public Health Service Guidelines for Management of
Occupational Exposure to HBV, HCV, and HIV and
Recommendations for Postexposure Prophylaxis
出典: MMWR 2001;50(RR-11):1-67.
ウェブ: http://www.cdc.gov/mmwr/PDF/rr/rr5011.pdf
■ HIVだけではなく、同様な危険をもつHBVやHCVについての職業上での曝露事故に対するガイドラインを作成したものが本書です。これまで「やっぱり3剤」とか「2時間以内でないと効果がない」という過剰な反応もありました。ガイドラインは多くの科学論文を参考にして作られ、現場では便益と危険(損害)を秤にかける必要があります。ほとんどのHIV曝露に対し、今回のガイドラインでは抗HIV剤を2剤だけ服用する「基本プログラム」で良いことが記されています。

カラーアトラス AIDS
原著者: Donna Mildvan M.D.
日本語版総監修: 福武勝幸(東京医大教授)
発行所: 株式会社テクノミック
ウェブ: www.technomics.co.jp/
値段: 34,000円
■ 「あ、これ見たことがある!」と勘が働くのは、一種の経験になり、それを別の人に伝えていくことは非常に大切だと思います。PDF版のCD-ROMが付録としてついています。パソコンに組み入れて利用できます。エイズ診療をしている診療科の図書室には1冊置いておきたいものです。

「 うち明けてくれてありがとう 」第2部
著者: 武田 淳、北山翔子、CALLA、戸部和夫
発行: エイズ教育研究会
発売: 和光出版
定価: 600円(本体572円)
■ 岡山大学保健管理センター教授の戸部先生は、平成10年に第1部を作られました。武田さんの手記と、それを読んだ学生・生徒からの感想文という構成で作られたものです。武田さんはその後、帰郷され亡くなりました。第2部は、北山翔子さん、そして「HIVoice」でおなじみのCALLAさんが加わりました。本の注文は、発行所の和光出版に。ご注文はFax 086-262-5096または、e-Mail( wako@net-s.ne.jp )で。氏名・発送先・連絡先・部数を明記下さい。ご注文後に入金先の連絡があり、入金確認後発送されます。

Medical Management of HIV Infection 2001-2002
編集: John G. Bartlett & Joel E. Gallant
ウェブ: http://www.hopkins-aids.edu/publications/book/book_toc.html
■ 研修医向けのエイズの参考書を1冊だけと言われたら、迷わずこの本を推薦します。本書は1991年の初版以来毎年改訂し、第10版は356ページの書籍となりました。上記ウェブから購入の注文でき、私たちは毎年取り寄せています。ウェブ版は無料で利用できます。

HIV感染女性のケアのガイド
原題: A Guide to the Clinical Care of Women With HIV: 2001
-- First Edition
ウェブ: http://www.hab.hrsa.gov/womencare.htm
■ 女性のHIV感染症のケア上で男性とは異なる点があります。発行元はアメリカ保健福祉省の部局、HRSAの中のHAV(HIV/AIDS Bureau)です。ウェブで読むこともできますが、冊子版の注文(1冊は無料)ができます。全部で15章だて、510ページものです。

2002〜2003年の世界エイズキャンペーンのテーマ

http://www.unaids.org/wac/2002/index.html
 今回の世界エイズキャンペーンは、「偏見と差別」です。目的は、これにより人々が沈黙を破ることを、そして効果的なHIV/AIDSの予防とケアに対する障害をうち壊すことを推進しようとしています。偏見と差別と闘うことをなくしてHIV/AIDSとの闘いに勝利することはあり得ません。

MedScapeは医療系ポータルのMediProを通じて

http://www.so-net.ne.jp/medipro/medscape/gateway.html
 多くのHIV専門家が、情報収集のトップにあげている「MedScape」が、日本向けにはMediProを通じてサービスされています。MediProはSo-netが運営する医療系ポータルサイトです。My Mediproへ会員登録をする必要があります。無料です。( https://oto.so-net.ne.jp/cgi-bin/bvcgi )

IAS-USAの薬剤耐性HIVのマップ

http://www.iasusa.org/resistance_mutations/index.html
 IAS-USAのサイトに、新しい抗HIV薬耐性マップが掲載されています。薬と病原体と耐性、イタチごっこと言われていますが、どこまで行くんでしょうか。PDFにはなっていますがカラーの絵のデータであるためか、1263KBもあります。

日本エイズ学会

http://jaids.umin.ac.jp/index.html
 よ・う・や・く、日本エイズ学会のHPができました。当面は、学会誌の公開が中心です。既に著者の許可を得てある第4巻からウェブで公開されています。抄録まではどなたでも、本文のPDF版の閲覧・ダウンロードには会員番号が必要です。

HIV感染症治療の最適化を目指した

コンサルテーションプログラム

http://aidstr.caids.kumamoto-u.ac.jp/
 厚労省研究班の中の一つのプロジェクト「salvage療法に関する臨床研究」で、熊本大学エイズ学研究センターの松下修三先生が運営しています。このプログラム目的は、個々の患者さんの状態に即して具体的なセカンドオピニオンを主治医に提供することで、主治医を対象にしています。また主治医を通じて治療を受けている患者さんも相談できます。

東京HIV診療ネットワーク

http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/tokyohivnet/
 事務局は東京医科大学病院臨床検査医学講座内にあります。東京HIV診療ネットワークでは、2001年6月に改訂された米国CDCの針事故対応のガイドラインをもとに、日本国内の医療機関がマニュアルを見直す際に必要な日本語の資料をまとめました。

静岡県の「コスモス」

http://www.pref.shizuoka.jp/kenhuku/kf-02/kansen/cosmos/index.html
 最近わかったばかりの感染者に、最初に渡すメッセージを集めたものです。静岡県健康福祉部の「コスモス」は東京都が作った「たんぽぽ」に似ています。

AMDA国際医療情報センター

http://www.osk.3web.ne.jp/~amdack/PDF/jap/pdf-J-master.html
 AMDA国際医療情報センターの「お役だちページ」です。言葉が通じにくく習慣も違う日本で、外国人の方たちが戸惑うことなく医療を受け、健康を守ることができるように文書(説明文あるいは書式例)を作りました。それぞれ英語、ポルトガル語、スペイン語、中国語、日本語版がありPDF文書となっています。医療機関で、あるいは個人で是非参考にして使って下さい。

HIV Care Management Initiative-Japan (旧:服薬検討会)

URL http://www.hivcare.jp

E-Mail hivcare@nifty.com
 HIV Care Management Initiative-Japanは、医療におけるより質の高いサービス提供を行うために、HIV感染症のマネジメントに関連する情報や経験を医療者の間で共有することを目的としている非営利の専門団体です。

JaNP+

http://www.janpplus.jp/
 正式名称はジャンプ・プラス、英語名Japanese Network of People Living with HIV/AIDSでです。代表はNoGAPの長谷川博史さん、活動目的は、「国内のPWA/Hの社会的な諸事情による不利益を回避し、その改善を目指してPWA/Hのネットワークを構築する。」です。

プレイス東京

http://www.ptokyo.com/
 プレイス東京は、Positive Kiving And Community Empowerment Tokyoの略号です。NPO法の認可を受けた団体(特定非営利活動法人)です。サービスメニューは、・HIV陽性者やパートナー・家族の相談、・HIV感染不安の相談、・講演やスピーカー派遣、・オリジナル SAFER SEX BOOK・活動・研究報告書やニューズレター、・活動への参加について。

web NEST

http://www.jade.dti.ne.jp/~nest/index-1.html
 web NESTは、HIV陽性者とその仲間たち(パートナー、家族、友人)のために役立つ情報や、交流の機会を提供しています。HIV陽性者の有志である「web NEST 運営委員会」と「特定非営利活動法人 ぷれいす東京」が共同で企画・運営し、定期的にミーティングを重ねながら進めています。

Sexual Health Web Site

http://www2.gol.com/users/ptokyo/frame.html
 NPO法人プレイス東京が運営する、新しい10〜20代女性向けサイトです。オジサンが行くと、わからん日本語「キモイ〜」がありました(・_・;)。女性用コンドーム、フェミドームは、「フェミコン」って言うんだそうです。

横浜AIDS市民活動センター

ウェブ版 http://www.yaaic.gr.jp/index2.html

Iモード版 http://www.yaaic.gr.jp/i
 開設は横浜で国際エイズ会議が開かれた翌年の平成7年7月です。エイズ予防啓発活動が中診で、街頭イベントから、クラブでの企画ものなどを行っています。コンドームのつかみ取りなど、若者へのアプローチを中心にしています。

AAA :Act Against AIDS

http://www.actagainstaids.com/
 音楽業界を中心に、エイズに対する関心を高め、正しい知識を知ってもらうことを目的に、1993年よりスタートしたエイズ啓発運動です。活動は12月1日の「世界エイズデー」に毎年行われるコンサートをはじめ、講演会、フリーマーケット、高校でのAAAコーナー設置、海外でのエイズと闘っている子供たちへの支援など。

「僕らの隣のHIV」

http://www.gb-sos.com/STD/
 ゲイとゲイ・コミュニティのために、東京都と協力してゲイの手によってつくられたHIV啓発パンフレットのWEB版です。内容は、「AIDSとHIV」をよく知ろう、Safer Sex Guide、STD(性感染症)、コンドームを使おう!、HIVの検査を受けよう!、もっと詳しく知りたい・・・・というもの。越後屋辰之進さんのイラストつきです。【END】


広大病院のHIV感染症診療を振り返る

高田 昇(広島大学医学部附属病院)

 2001年は最初のエイズ例の記録から20周年にあたりました。広大病院は1997年度から、厚労省より「エイズ治療のための中国四国地方ブロック拠点病院」に指定され、2002年の3月で5年が経過したことになります。そこで、この5年間をその前の時代と対比しながら、広大病院のHIV感染症診療をレビューしてみたいと思います。

 1986年4月に始まった
■ 広大病院のHIV感染者を2年ごとの棒グラフで示しています【図1】。右側はその2年間の死亡者数、左側は新患数です。HIV抗体検査が実施可能になったのが1986年の4月でした。従って、この年の15名の新患はそれまでに広大病院で診療を受けていた血友病の患者です。その後1990年までに14人の血友病HIV感染者が追加されています。本院に受診してHIV陽性とわかったもの、他院でHIV陽性とわかり本院に紹介されたもの、自主的に転院して来た人たちです。当時はHIV感染症の自然歴がわからず、教科書もありませんでした。

 反復性肺炎の血友病患児
■ 少し前から広大医学部小児科の医師たちは、研究としてCD4/CD8(当時はOKT4/8)の検査を始め、血友病患児の一部に異常があることに気づきました。最も結果が悪かった10才の子が、1985年秋頃から肺炎や気管支炎を繰り返したため、小児科の医師はきっとエイズに違いないと思うようになりました。反復性肺炎がエイズの診断基準に加わるのは1993年のことです。HIV抗体検査ができるようになって検査をしたらやはり陽性でした。経過中、肺のアスペルギローマを併発しましたが、外科医はHIV陽性と知ったうえで、1987年に肺葉切除の大手術を実施しました。そして2年の経過で亡くなりました。
■ 第2例目は1987年の冬、30代半ばの血友病患者がカリニ肺炎を発症しました。HIV抗体が陽性であることは本人に告げていましたが、進行の防止をどうすればよいかという問いに答えることはできませんでした。気管支肺胞洗浄液からカリニ病原体を証明し、ST合剤で治療を開始し、さらにペンタミジンを熱帯病治療研究班から入手して治療に成功し、社会復帰できました。
■ 最初の抗HIV薬であるレトロビル(AZT)が発売されたのは1987年の夏でした。この患者が最初の服用者となりましたが、薬剤の説明書通りに服用すると、ひどい嘔気と嘔吐が襲いました。唯一の薬も1日量(1200mg)の4分の1しか服用できず、この患者にとってその後の2年間は大変な重圧の生活でした。
 院内で孤立した時代
■ 1988年にアフリカから帰国した男性が診療を求めて来院しました。彼は性行為感染の第1例でした。1991年より同性間の性行為による感染者・発病者、さらに女性の感染者も来院するようになりました。いずれも他院からの依頼を受け入れてきたものです。
■ 1991年から1992年は病勢の進行を阻止できずに重症化する患者を抱える一方でした。治療薬がなかった播種性MAC症患者の終末期の苦しみは大変なもので、病棟スタッフも燃え尽きそうでした。院内の同僚の支援を簡単には受けにくく、協力を得るために大きなエネルギーが必要でした。1989年に始まったエイズ予防財団派遣の心理カウンセラーと、同じ血友病患者を抱える小児科との月例カンファレンスで支えられた時代でした。
 エイズ死亡者数の推移
■ 死亡例は1992年がピークでした。その後の死亡者数減少はカリニ肺炎予防など、日和見疾患の予防や治療が改善されたためと思われます。さらに1997年以降にはプロテアーゼ阻害剤が導入され、明らかな改善が見られました。つまりHIV感染の状態からエイズを発病したり死亡することがなくなりました。2001年の2人の死亡は、他院から依頼されたカポジ肉腫末期の患者と、エイズ発病で発見された乳児でした。死亡15例の中で10例については病理解剖をさせて頂きました。
 ブロック拠点病院としてのスタート
■ 1996年3月に薬害HIV裁判の和解があり、1997年の3月から広大病院は厚労省が指定するブロック拠点病院になりました。中四国9県、58の拠点病院のサポートをする仕事が加わりました。スタッフとしては文部省から輸血部の助手、厚生省からはエイズ予防財団のリサーチレジデント4人が加わりました。8人の血友病の陽性者の新規受診がありますが、転勤や入学あるいは治療相談のための紹介受診です。2001年度の新患数は8人であり、この比率で増えれば、直線的増加になると予想されます。
 血友病患者の延命
■ 広大病院のHIV感染者を感染経路別・転帰別に示したのが【表1】です。カッコ内は外国人で内数です。血液製剤によるHIV感染者は累計43人で、このうち17人が転居していますので観察数は26人です。すでに14人がエイズ発病して10人が死亡し、現在4人の発病者を含む16人の経過観察を行っていることになります。発病例の死亡は1995年以降激減し、最長経過日数は7年を越えました。強力な抗HIV薬併用療法の進歩がHIV感染者の生命予後の延長に貢献していることは明らかです。

 性行為感染の男女の増加
■ 男性と性行為を持つ男性(MSM)の最初の感染者は、1991年初診の外国人でした。2例目はカポジ肉腫発症で紹介されてきた男性であり、パートナーへの感染も確認されました。MSMの感染者数は性行為感染の34人中14人を占めており、近年の新患の中で増加傾向がはっきりしています。異性間性行為感染者の男女比は14対6でした。男性の場合は1人を除いて感染源となった相手が特定できませんでしたが、女性の場合は全員が特定の性的パートナーからの感染でした。
 母子感染児の衝撃
■ 2001年に生後6ヶ月の乳児がエイズ発病で発見され、急性脳炎で死亡しました。我が子の発病で自分たちの感染を知ることになった両親は、母子感染の防止可能性について知った後、妊娠時のHIV検査を勧められていれば受けたのにと、絞り出すように語りました。医療者はHIV感染の危険や防護策を伝え、HIV抗体検査を勧めて検査を実施し、その結果を伝えることができるようになることが必要であると強く感じました。
 外国人感染者の問題
■ 外国人12人の中で最多はブラジル5人、これにアメリカ合衆国3人、アフリカ諸国4人が続いています。外国人感染者が抱える2大問題は言葉と医療費です。幸い広大病院の患者では、全員が日本の医療保険を持っていました。これにより身体障害者手帳の取得につながりました。ポルトガル語の通訳がないと診療自体が不可能な人があり、通訳確保は大切な問題です。
 院内で発見される感染者
■ 院内の各診療科の診療過程でHIV感染と判明したのは4人ありました。HIV抗体検査のきっかけはアメーバ肝膿瘍、梅毒、不明のリンパ節腫大、進行性多発性白質脳症などでした。日本赤十字社の献血が発端となってHIV感染が判明した感染者は6人になりました。
 5年間での患者背景の変化
■ 1996年の4月から1997年の3月まで、つまりブロック拠点病院になる寸前の1年間に広大病院を受診したHIV感染者は24人でした。このとき66.7%つまり16人がいわゆる薬害HIVの感染者でした。2001年の4月からの1年間には39人でした。血友病の患者数はそのままで、増加したのは性行為感染の感染者で、血友病と非血友病の比が16対23と逆転しました【図2】。

 HIV感染者の年令分布
■ 2001年度の感染者39人の年令分布を感染経路別で示しました【図3】。血液製剤による感染者が比較的低い年齢にあることが注目されます。HIVに感染したときの年令が高い方がエイズに早く進展するとがこれまでの調査で報告されています。50代の患者が2名だけとなっていますが、これは残りの患者がすでに発病して亡くなったということを示しています。

 抗HIV療法は画一的でない
■ 2001年度の感染者39人の抗HIV療法について示しました【表2】。抗HIV薬を服薬していないものは12人あり、このうち3人は若い血友病の長期非進行者です。日本の血友病患者の50%がHIVに感染した時期が1983年の3月と報告されているので、すでに平均で18年が経過しています。これら3人の感染者の血中HIV量は169, 418, 571コピイ/mLです。1998年以降の感染者8人では無治療のまま経過観察をしています。1人を除いてCD4細胞数は300以上で、HIV RNAは53,000コピイ/mL以下です。
【表2】 2001年度最後の観察日の治療状況

治療してないもの 12人
→血友病3人(RNA169、418、571c/mL)・・・長期非進行者
→血友病1人(依存症)
→その他の8人は1998年以降の新患
 (CD4数>300、RNA〜53,000c/mL)

抗HIV療法中のもの 27人(19種類の組み合わせ)
→2剤:2nRTI3人、1nRTI+1PI1人
→3剤:2nRTI+NnRTI10人、2nRTI+1PI10人、2nRTI+2PI3人

薬剤ごとの使用頻度
→nRTI 3TC:20、d4T:16、AZT:10、ddI:5、ABC:1
→NnRTI EFV:9、NVP:1
→PI NFV:9、IDV:3、SQV:3、RTV:2
■ 抗HIV療法を実施しているのは27人で、最終観察日の薬の組み合わせは19通りです。2剤の患者は4人、3剤が22人、4剤が1人です。薬剤別の使用人数は核酸系逆転写酵素阻害剤ではエピビル(3TC)が20人で最も多く、ゼリット(d4T)16人、レトロビル(AZT)10人などです。非核酸系逆転写酵素阻害剤のストックリン(EFV)が増えてきました。プロテアーゼ阻害剤ではビラセプト(NFV)が9人で最も多く、プローゼ(APV)とカレトラ(LPV/RTV)は処方例がありませんでした。
 ウイルス学的治療失敗率は約半分
■ 27人の抗HIV療法中の患者の最終観察日におけるHIV RNA量を示します【表3】。現在の検査法で検出限界以下、すなわち50コピイ/mL以下を達成している患者は14人です。その他の13人では多かれ少なかれウイルスが検出されています。1000コピイ/mL以上の場合は薬剤耐性検査が可能です。全員で何らかの耐性変異が証明されました。

■ 薬剤の選択には色々な要素を考慮しなければなりません。初回患者では臨床試験や治療指針を参考にしながら、服用のしやすさと副作用に注意します。治療変更が必要な患者では、薬剤耐性の情報が大きく影響します。つまり副作用があっても有効性を優先しなければならないからです。このように、抗HIV療法の決定は患者ごとに工夫する必要が高く、知識と経験が要求される専門領域です。
 幅広いケア提供者の育成を
■ 厚労省のエイズ動向調査では、2001年末までに中国四国地方でHIV感染者が80人、エイズ患者が41人報告されています(血液製剤による感染者・発病者を含んでいません。報告の県名は昔の調査では居住地、現在は病院の所在地となっていて、転居情報はありません)。広大病院の血液製剤以外の感染者は35人でした。必ずしも中四国の121人中の35人を診ているというわけではありません。しかし患者が拠点病院に集中していることは明らかでしょう。
■ エイズを発病してからでは治療困難な病気で死亡することがあり、HIV抗体検査によって早めに診断されることが望ましいと言えます。HIV抗体検査を普及する上では、検査の機会を捉えて勧めることも大切で、妊婦検査はその例でしょう。外国人の感染者では医療上の問題よりも、言葉と医療費など社会経済的な問題が大切です。
■ 抗HIV療法の考え方は常に変化しており、最近では治療開始を遅らせる傾向が一般的です。薬剤の副作用と薬剤耐性の問題が鍵を握っており、新薬の開発も望まれています。エイズはこれから間違いなく患者数が増えると共に、患者層も広がります。今回は医療を中心に述べましたが、心理的ケアや社会的サポートなど広いニーズがあります。今後は幅広いケア提供者の育成にもっと力を注がなければなりません。【END】


Copy right (C) 2002, Chugoku-Shikoku Regional AIDS Center