今しなければならないこと−Do something

厚生省HIV感染症の医療体制に関する研究班主任研究者

 国立大阪病院 白阪琢磨
 後天性免疫不全症(AIDS)の世界最初の報告が1981年にされて以来、HIV感染症は世界に蔓延し、現在、3,300万人がHIVに感染していると推定されています(UNAIDS)。わが国でも厚生省のエイズ動向委員会が新規報告数の増加を指摘し、絶えず警鐘を鳴らしていますが、薬害HIV訴訟の和解を境にエイズに関するマスコミ報道が格段に減少したためか、国民はHIV感染症の国内での蔓延状況を知りません。HIVは世界各国で多くのかけがいのない市民の幸せと命を奪ってきました。わが国でも適切な対応を怠れば、もっと深刻な状況が来るように思えてなりません。
 確かに、この20年間でHIV感染症の治療は飛躍的に進歩しました。次々と優れた抗HIV薬が登場し、HAART(Highly active antiretroviral therapy)と呼ばれる強力な治療法が確立しました。先進諸国では、この治療法によってエイズ死亡者数も激減し、「HIV感染症も今や治療薬がある慢性疾患」とのイメージが定着しました。しかし、この治療法にも問題があります。副作用、薬剤耐性HIVの出現、服薬を規則正しく生涯続けなければならないことなどです。血友病患者に多い肝炎合併例では抗HIV薬の投与も容易ではありません。治癒をもたらす薬ではありませんので、共生が必要です。
 私はHIV対策を考える上で重要な柱が4つあると考えています。疫学調査研究、抗体検査体制の整備、教育・啓発・予防活動の推進、そして医療体制の確立です。予防に関連しては、医療経済的視点からの分析ももっと必要ではないでしょうか? HAARTの登場によって未発症者の予後が改善した反面、抗HIV薬の医療費がかかる様になりました。外来通院時の医療費は、発症の有無によらず月額平均で約19万円〜24万円(年223万円〜290万円/人)かかります(以下、文献1)。もし、新規感染者5人の内で4人が、AIDS患者は全例が抗HIV療法を受け、今後も毎年、新規の感染者と患者が1999年と同数(それぞれ、530件/年、300件/年、エイズ動向委員会)ずつ見つかり治療を継続したと仮定します。すると、2000年以後の5年間で合計240億円、10年間なら800億円の医療費が余分に必要になります。実際にはさらに入院費が加算されます。これらの金額は総医療保険費(28.5兆円、平成11年度)に比べれば多くはないかも知れませんが、今後、患者数、感染者数が増加すれば医療費はさらに必要となります。これらは、きわめて大雑把な単純計算ですので、専門家の意見を伺うべきだと思います。しかし、申しあげたいのは、HIVの感染は予防できる筈ですので、医療経済的見地からも感染予防の重要性を再認識すべきだということです。市民の方々に対象層に応じた適切な予防介入が必要と思います。
 わが国で1986年、1987年に起ったエイズパニックは、医療従事者にも大きな影響を与え、医療機関がHIV診療を拒否するなど、HIV医療体制を大きく後退させました。その改善のためエイズ治療の拠点病院構想が打ち出され、さらに薬害HIV訴訟とその和解に基づいて、エイズ治療研究開発センター(ACC)が東京の国立国際医療センター内に設置、各ブロックではブロック拠点病院が選定されました。ACC-ブロック拠点病院-拠点病院という現在のわが国のHIV医療体制の骨格は、国主導型で各自治体の協力によって構築されてきました。しかし、拠点病院の選定当時とはHIV医療環境も大きく変化してきましたので、拠点病院の在り方については検討が必要かも知れません。とりわけ、関東甲信越ブロック(ブロック拠点:新潟大学)には、わが国の大半の感染者(77.0%、平成11年度)/患者(71.9%、平成11年度)が存在し、今後の患者数の急増も見込まれていますので、当ブロックに112ある拠点病院を中心とした医療体制の構築は、他の地域以上に重要と考えます。
 HIV感染者・AIDS患者さんに必要な医療を提供するには、この骨組みだけでは十分ではありません。例えば、血液製剤でHIVに感染した方の多くはC型肝炎にも感染し、重症な肝硬変にまで進みHIVの治療も困難である例が少なくありません。血友病、血友病性関節症、慢性C型肝炎(肝硬変)、HIV感染症と複数の疾患への総合的取り組みが必要で、複数科間での緊密な連携が重要となります。また、歯が痛くなったり、風邪をひいたり、頭痛の時、あるいは熱が出た時、いつもいつも拠点病院に行かねばならないのは不便ですし、不都合でしょう。しかし、地域に未だに存在するHIVに対する偏見・差別は患者自身が施設を選択することを制限しています。その上で、患者のニーズを踏まえた患者の生活圏における医療施設間での密なネットワークの形成が必要と思われます。
 では、HIV医療の中味についてはどうでしょうか?これまでも、HIV感染症との取り組みから、既存の医療の問題点や不備な点が明らかにされてきました。人権、プライバシーの取り扱い方、診療の在り方、院内感染対策の在り方、診療機関の間での連携の在り方、専門職の役割、患者さんへのサービスの在り方などです。看護の専門的立場から患者さんのケアについて研究がなされ、歯科診療についても感染症に対する取り組みの一環として研究が進められてきました。
 さらにHIV診療では、精神的あるいは臨床心理的対応に専門的スキルが必要とされる場合が少なくないという経験とカウンセラーの実績に基づいて、医療の現場でも臨床心理士らによるカウンセリングが果たす役割が大きいことが示されました。HIV感染者には若者が多く、経済的自立が困難であり、しかも親にさえ相談できない例もあります。免疫機能障害申請で戸惑う場合もあるかも知れません。これらではソーシャルワーカーの存在が心強く思われます。さらに海外ではケースマネージャーと呼ばれる職種が、患者の医学的、社会的、経済的、精神的問題を把握、理解した上で地域の社会資源(NGOを含む)と連携をとりながら、患者に必要な支援を提供している例があります。
 保険を持たない外国人の場合では医療費が問題となる場合が少なくありませんし、言葉の問題から通訳の役割が重要であることも再認識されています。これらはHIV医療体制の確立の中から浮かび上がってきたことでHIV特有のものもありますが、HIV以外の疾患でも私たちが今まで気付いていなかったが、実は必要であったことも少なくありません。今後、患者のニーズを把握した対応が必要と考えます。
 専門家による疫学の詳細な研究は、わが国における感染者数が今後も増加すると予想しています。今私たちがしなければならないことは何でしょうか?HIV医療で明らかにされてきた問題をひとつひとつ解決していくことがまず必要ですし、感染者数、患者数の増加に対応できるHIV医療体制を患者の生活圏のレベルにまでしっかりと確立することも必要です。抗体検査体制の整備も重要です。そして蔓延を防ぐための予防対策の実践が急がれると思います。皆様はどの様にお考えでしょうか? どうか皆様のご意見、アイデアをお寄せ戴きます様に、お願いいたします。
文献1) 厚生科学研究補助金HIV感染症の疫学研究班 平成11年度研究報告書

【連絡先】

540-0006 大阪市中央区法円坂2-1-14

国立大阪病院

総合内科/臨床研究部ウイルス研究室

白阪琢磨

電話:06-6942-1331(内線3327)FAX06-6946-3652

E-mailsirasaka@onh.go.jp

Homepagehttp://www.onh.go.jp/khac/

「 エイズUpDateジャパン 」は続けます!
■「エイズUpDateジャパン」は1年で消えてしまう?ずっとわかりませんでした。本誌は厚生省の研究班の発行ですから、研究班の切り替わりの時期、そして新しい体制作りの期間が続いていたのです。で、「エイズUpDateジャパン」は続けます!
■ 厚生省科学研究費補助金によるエイズ対策研究事業は、課題が公募され、事前評価委員会によって審議され、採択されることになっています。平成9年から11年にかけて吉崎和幸先生(大阪大学健康体育部教授)が主宰された「エイズ治療のための地方ブロック拠点病院と拠点病院の間の連携に関する研究班」(吉崎班)と、今回の白阪班のテーマが重なっていることもあり、白阪先生が本誌の発行を継承することを決定しました。今後、「エイズUpDateジャパン」はリニューアルされた研究班の内容をお伝えできればと思います。

2000年世界エイズデーの標語は

"AIDS, men make a difference"

http://www.unaids.org/
■ UNAIDS(国連合同エイズ計画)は、2000年「世界エイズデー」のキャッチフレーズを、"AIDS, men make a difference"としました。直訳すると、「エイズ、男たちが差をつける」です。昔そんな男性化粧品のCMがありましたね。UNAIDSの説明は次のようです。『・・・・男性なしではHIVは広がる機会がほとんどなかったであろう。世界のHIV感染の70%は男性と女性の間で、さらに10%は男性同士の性行為で起こっているのである。別の5%は薬物を注射する人たちの間で起こっているが、その5分の4は男性である。・・・・』 このようにキャンペーンとは焦点を当てます。
■ ところが日本ではどなたが変えたのか知りませんが、「エイズを知って あなたが変わる わたしも変わる」と焦点ぼけになりました。日本の現状を踏まえて変えたのだそうですが、変えられてしまう所が日本の現状なのでしょう。[TAKATA]

表:厚生省エイズ関係の研究班リスト

研究課題

開始

終了

主任研究者

所属
HIV感染症の治療に関する研究(治療ガイドラインを含む)

H12

H14
岡 慎一 国立国際医療センター研究開発部
妊産婦のSTD及びHIV陽性率と妊婦STD及びHIVの出生児に与える影響に関する研究

H12

H14
田中 憲一 新潟大学医学部
日和見感染寄生原虫の治療薬の開発研究

H12

H14
仙道 富士郎 山形大学医学部
日和見感染症の治療に関する研究

H12

H14
木村 哲 東京大学医学部
HIV等のレトロウイルスによる痴呆や神経障害の病態と治療に関する研究

H12

H14
出雲 周二 鹿児島大学医学部
血友病の治療とその合併症の克服に関する研究

H12

H14
松田 道生 自治医科大学生体機能分子学
HIV感染症予防に関する研究

H12

H14
竹森 利忠 国立感染症研究所
エイズ発症阻止に関する研究

H12

H14
岩本 愛吉 東京大学医科学研究所
HIV感染症の医療体制に関する研究

H12

H14
白阪 琢磨 国立大阪病院
HIVの検査法と検査体制を確立するための研究

H12

H14
今井 光信 神奈川県衛生研究所
HIV感染症の疫学に関する研究−世界のAIDSの流行格差の要因の分析

H12

H14
島尾 忠男 エイズ予防財団
HIV感染症の動向と予防介入に関する社会疫学的研究

H12

H14
木原 正博 京都大学医学部
"性感染症としてのHIV感染"予防のための市民啓発を、各種情報メディアを通して具体的に実行する研究計画

H12

H14
熊本 悦明 財団法人性の健康医学財団
東アジア及び太平洋沿岸地域におけるHIV感染症の疫学に関する研究

H12

H14
武部 豊 国立感染症研究所
日本におけるHIV診療支援ネットワークの確立に関する研究

H11

H13
秋山 昌範 国立国際医療センター
エイズに関する人権・社会構造に関する研究

H11

H13
樽井 正義 慶応義塾大学文学部
HIVの病原性決定因子に関する研究

H10

H12
田代 啓 京都大学遺伝子実験施設
HIV病原性の分子基盤の解明に関する研究

H10

H12
山田 章雄 国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センター
HIV研究の評価に関する研究

H12

永井 美之 国立感染症研究所エイズ研究センター
エイズに関する非政府組織の活用に関するモデルプラン策定研究

H12

H14
我妻 尭 国際厚生事業団
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

H12

H14
池上 千寿子 ぷれいす東京
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

H12

H14
大石 敏寛 動くゲイとレズビアンの会
エイズに関する普及啓発における非政府組織(NGO)の活用に関する研究

H12

H14
五島 真理為 HIVと人権情報センター

国連合同エイズ計画 報道発表

2000年 世界のエイズ 最新の国連推計

エイズ流行が最も深刻な国々では、現在15才の

子供の3分の1以上がいずれエイズで死亡する

http://www.unaids.org/whatsnew/press/eng/durban260600.html

翻訳:広島エイズ・ダイアル 和泉志津恵

監訳:広島大学医学部附属病院輸血部 高田 昇

★ 最も打撃をうけた国で、HIV/エイズは社会に幅広い影響を与えながら、人口統計の劇的な変化を起こしている。
★ 感染の広がりとその影響を減少させるためには、大幅の資金投入が必要である。
■ 世界で最も打撃をうけた地域、特にサハラ以南のアフリカの一部では、HIVの蔓延が現在も続いているので、死亡率の減少する時代に逆行して若年成人の死亡率が急上昇し、最悪の影響を受けた地域の人口構成が劇的に変化している。裕福な国と少数の途上国では、エイズの原因ウイルスであるHIVの伝播は落ち着いてきた。一方で、サハラ以南のアフリカ16ヶ国では、15〜49才のHIV有病率はすでに10%以上になってしまった。
■ これらの国々は、罹患率がこのように高いのにもかかわらず、エイズの人口統計への影響を過小に発表している。エイズにより死亡する確率は、有病率が示すよりも系統的に高い。最新の控えめな解析結果でも、これらの国々が、ここ15年間のHIV新規感染率を半分に減らしても、この関係は変わらないという。たとえば、成人の15%が現在感染しているとすると、現在15才の子供の3分の1以上はエイズで死亡するであろう。成人の有病率が15%を越える国々では、予防プログラムが成功して、HIVの感染リスクを半分に抑えられたと仮定しても、エイズによる死亡の生涯リスクは、それよりなお大きい。
★ 成人の5分の1から4分の1が感染している南アフリカやジンバブエのような国々では、エイズは15才の子供たちの約半数の命を奪おうとしている。
★ ボツワナでは成人の3人に1人が既に感染しており、世界で最も高い有病率であるが、現在15才の男の子の3分の2以上が若くしてエイズで死亡するであろう。
■ これらの所見は、最新の国連報告書に含まれている。報告書では、HIV感染の現在の傾向が多くの国々で乳児、幼児及び成人の死亡率、平均余命、そして経済成長への影響を増大させると示している。地球的規模の流行に関する各国別の最新情報を含む「HIV/エイズの地球規模の流行に関する報告書」が、"HIV/エイズに関する国連共同プログラム(UNAIDS)"によってまとめられ、7月9〜14日に南アフリカのダーバン市で開催される第13回国際エイズ会議に先立って公開された。
■ ジュネーブでの報告書の公開に際して、UNAIDSの事務総長であるPeter Piot氏は次のように警告した。「最も深刻な国々では、エイズによる犠牲は、社会の経済的及び社会的な構造を変化させています。HIVが最も流行している国々において、HIVは若年成人の3分の1以上を殺すでしょう。しかし総合的な対策は、本来できる中のほんの一部しかできていません。私たちは、これまでやってきたことより、遙かに大きな規模で、この危機に対処する必要があるのです。」
長期の人口統計的な影響は、社会の安定を脅かす
■ 発展途上国では、主に男女間の安全でないセックスによってHIVの伝播が起こっているが、大半は平均すると20代や30代までにHIV感染して、約10年後にエイズで命を落とす。その結果、生産力のある就業者人口の減少や、社会から最も援助を必要とする高年齢と幼年齢層に属する人口割合の増加が、社会の不安定性に重要な影響を与える因子となりつつある。
★ 流行が始まってからこれまで、15才未満の子供たち計1,320万人が、エイズのために母親か両親を失った。
★ アフリカのある地域では、エイズ流行が地域の基礎学力を損ないつつある。つまり、学費を削り、幼い子供たちを労働へ駆り立て、定年退職前の教師の生命を犠牲にしている。コートジボアールでは、教師死亡の10人のうち7人までがHIVによるものである。ザンビアでは、1998年の10ヶ月だけで1,300名の教師を失った。その数は、毎年訓練される新任教師の3分の2に相当する。
★ 多くの発展途上国では人口の5分の4が農業で生計を立てているが、深刻な崩壊に直面している。たとえば、西アフリカでは、現金収入の農作物と食品の栽培が減少していると報告されている。
★ 産業ではエイズの影響がすでに根底まで及んでいる。あるケニアの農園では、エイズの発病例や健康にかかる費用は、近年8年間で10倍もの増加を示した。
★ HIV関連疾患の医療ケアの必要性が増えたため、裾野が広がった医療サービスに重い負担をかけている。タイからブルンジに至る国々では、大きな市中病院の40〜70%のベッドをHIV陽性患者が占めている。同時に保健部門は、エイズのために人的資源を次々と失っている。ザンビアで行われたある研究では、10年間の病院スタッフの死亡数が13倍増加し、そのほとんどがHIVによるものだったと報告している。
■ Dr.Piotは語る。「エイズによって、貧困がどんどん進んでいます。HIVの広がりを抑制し、社会の発展に対するエイズ流行の影響を軽くするためには、より多くの資源の必要性が増えています。借金からの開放とエイズ流行からの開放の2つを結びつける時期がきたのです。
 HIV/エイズの95%を抱える発展途上国は、合計約2兆米ドルの負債を抱えています。なかでもアフリカが最優先です。なぜならHIV感染者が最も多く、エイズによる死亡者が最も多く、大半が借金を抱えている貧しい国々の地域だからです。
 アフリカの政府は、保健や教育に費やす金額より4倍以上の借金を返済しています。もし国際社会が幾らかの対外債務の棒引きを行えば、これらの国々は、貧困の緩和とエイズの予防とケアに再投資することができます。もしそうでなければ、貧困はエイズ流行の炎をあおぎ続けるだけです。」
HIV感染率は多くの国々で増加し続けている
■ UNAIDSと世界保健機構(WHO)の推定によると、最も深刻な流行が見られる一部のサハラ以南のアフリカでは、成人と子供のHIV感染者2,450万人が生存しており、15〜49才の感染者の割合は多くの国でなお増加している。カメルーン、ガーナ、南アフリカのような国々では、世界で最大の420万人がHIV/エイズが生存し、成人の有病率が過去2年間に1.5倍以上にはね上がった。
■ その地域のすべての国々において、15〜24才の若い女性のHIV有病率は、同年代の若い男性より普通2倍から3倍高い。15〜19才の年齢層では、性別による違いがより大きい。幼い頃に合意の上あるいは強要されて性交をする少女は、特に感染の被害を被りやすい。それは、彼らは性器が未熟であるばかりでなく、彼らのパートナーはしばしば感染していそうな年上男性だからである。
他の大陸でも流行は勢いを失っていない
★ アジアやラテンアメリカの数カ国では、HIVの予防計画が採択され、異性間の性行為による感染率増大の脅威を今ではせきとめている。一方、15〜49才の2%以上が感染しているインドの人口過密州のいくつかでは、安全でない男女間のセックスが、流行の拡大に貢献している。アフリカ以外で世界のどこよりも成人のHIV有病率の高いバハマやハイチのカリブ諸国でも、異性間の感染が優勢である。
★ HIVは注射薬物使用者や男性とセックスをする男性の間にしっかり食い込んでいる。世界規模では、注射薬物使用者はウイルスに曝露されつづけ、多くの場所で少なくとも3人に1人の割合で感染している。最近の2年間にHIVに感染した成人の相対的な割合はバルト海沿岸諸国が急峻な増加をみせているが、成人の100人のうち約1人が感染しているウクライナやロシア共和国の実人数がはるかに多く、まだ増え続けている。男性とセックスをする男性の間では、HIVの有病率は多くの場所で15〜20%であり、新規感染率が減少しているという徴候はない。
★ 国民所得が高い国々とラテンアメリカの一部分では、高価な抗HIV薬のお陰でエイズによる死亡数が劇的に減少している。しかし、自己満足などの要因のせいで、危険な性行動が増えているという明らかな証拠がある。サンフランシスコでは、複数のパートナーを持ち防護のない肛門性交をするゲイ男性の割合が、1994-1998年の間で増加した。これは直腸の淋病が何年もかかって減少していたのに、急増したのとまったく並行している。
希望の兆しもあるが、早く大規模な対応が必要
■ 全体の状況は酔いが醒めてしまうものだが、UNエイズの報告書には世界は流行に対して無力ではないことを示す新しい情報が掲載されている。何年も前からエイズ流行に堅実な手段で戦ってきた国々は、HIVやエイズの率が減少したり低くとどめたりしているし、HIVやすでにエイズ発病した人々が受容され、苦悩が減るという成果をあげている。後から同じような手段をとり始めた国々は、同じような利益が期待できる。
★ 十分ではないにせよ、エイズ教育と情報キャンペーンの結果、セックスを始めるのを遅くするとか、行きずりのパートナーの数を減らすとか、コンドームを使うようにするなど、色々な予防手段をとる若者たちの数が増えてきたことは励みになる。
★ 発展途上国や国際的基金提供機関は、エイズ関連のケアを有効な投資としてみなし始めている。つまりHIV/エイズに感染者には直接的な利益が及び、社会全体にはエイズ予防という間接的な副産物があるためである。多種多様な共同ベンチャーが、ケアとサポートに接しやすくするために門戸を開いている。たとえば、ラテンアメリカとカリブ諸国では、HIV関連の薬や必需品に支払われた金額を多国間調査を行って大きな価格差があることを明らかにし、薬品会社と折衝して値下げ交渉に成功した。
★ タイで成功したキャンペーンに影響されて、カンボジアはシアヌークビル市で、売春では「100%コンドームを使う」ことを勧める試験的な計画を始めた。男性客(軍人、警察官、2輪タクシー運転手)の回答では、売春婦との間では、たった2年前のコンドーム使用率は55%未満だったが、今では65〜75%が使うと報告している。一方、売春宿を基盤とする売春婦からも同じような高い使用率が報告されている。
★ マラウィとウガンダからの経験が示すように、高いHIV有病率をもつ社会でさえ、micro-credit schemes(少額信用貸し付け計画)が非常な成功を収めることができる。つまり、小さな商売を始めたい人や、返済ができそうな人に少額の貸し付けをする計画は、貧困を軽減しエイズによる経済的な影響を緩和する重要な役割を果たすことができた。
★ 初めての性交の時にコンドームを使う割合が非常に高くなったのはブラジルである。ブラジルでは政府がHIV予防、ケア、そして感染者の権利擁護に積極的な推進を行ってきた。1986年には、若者が初めてセックスをするときにコンドームを使うのは5%未満であった。ところが1999年では50%近くなっており、高学歴の男性では70%を越えていた。
★ ザンビアの首都ルサカで行った最近の調査では、15〜19才のHIV感染妊婦の比率は、過去6年間でおよそ半分に減った。ザンビアはウガンダが歩んだ流れに従うかもしれないという希望がもてる。即ち、若い都市に住む女性の感染率の下降が流行が逆向きになったことを予告した。成人のHIV有病率のウガンダの感染率は、1990年代初期の14%に近いピークから現在ちょうど8%を越えるくらいに下降している。
■ 「流行に対して世界は無力ではないことを証明することによって、希望の灯火を燃え続けさせています。とはいえ、これまでのところ、我々の成果はバラバラで系統だっていません。すべてのところで流行の満ち潮を変えるために、国家予算と国際的開発援助からの資金を飛躍的に増やして、あらゆる努力をする必要があるのです。」とDr.Piotは言っている。

UNエイズの報道発表記事をもっと詳しく知りたい人は、

UNAIDSのウェブページ

http://www.unaids.orgをご覧下さい。

第13回国際エイズ会議

http://hiv.medscape.com/conferences/durban2000

http://www.aids2000.com/
■ 第13回国際エイズ会議は2000年7月9日から14日にかけて南アフリカ、ダーバン市で開催されました。MedScapeはエイズ関連記事を最も豊富に掲載しているサイトの1つで、国際会議のまとめも掲載されています。初めてMedScapeのサイトに入るときは簡単な登録が必要ですが、料金はかかりません。医療従事者にはぜひお勧めです。
■ 第13回国際エイズ会議の事前登録は8000人だったそうです。会議は単に基礎医学、臨床医学的な事柄だけではなく、教育、社会、政治、文化に及ぶ幅広い発表が行われました。医学的な面では、びっくりするような大ホームランはみられず、いくつかのシングルヒットだったようです。少し前から純粋な医学的な新発見や新知見はこの会議ではあまり出なくなりました。むしろ他の学会や国際会議に発表の場が移りました。
■ アフリカで初めての、あるいは発展途上国で初めての国際エイズ会議であったというのが一番大きな意味でしょう。南アフリカは長い間アパルトヘイトの問題で苦しんできました。極貧から富裕層まであり、富裕層についてみれば世界でトップレベルの医療も受けることができ、国内に各種の産業基盤もありました。この地を平和的に共存していくことができる、民族共生の象徴として国際エイズ会議があったと思います。
■ 国内400万人とも推定されるHIV感染者を前にして、南アフリカのムベキ大統領は「HIVだけがエイズの原因ではない」と宣言し、物議をかもしました。HIV感染予防の努力を遅らせ、HIV検査を遅らせ、HIV治療を推進せず、HIV母子感染予防ができません。結果として多くの国民を失うことになると予想されます。[TAKATA]

アメリカ

成人用と小児用の抗HIV療法のガイドラインが変更された

http://www.hivatis.org/
■ アメリカ保健福祉省の公式なHIV治療指針が改訂されました。ATIS(HIV/AIDS Treatment Information Service)のサイトには、これまでのガイドラインが、古いものから新しいものまで掲載されているので、変遷をみることができます。新しい抗HIV薬が市販され、薬剤の副作用を勘案し、薬剤の位置づけや治療の考え方を修正しています。EBM(証拠に基づく医療)として、よりきめ細かく複雑になっています。

小成人と思春期のHIV感染者用の

抗HIV薬使用に関するガイドライン
原題:Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in HIV-Infected Adults and Adolescents
作成者:Panel on Clinical Practices for Treatment of HIV Infection

◆ 新しいガイドラインには「治療のゴール」をかかげています。
1.血漿ウイルス量を可能な限り長期間、検出限界以下に抑え続けること。
2.患者の免疫能の回復と維持すること。
3.患者の人生の質を高めること。
4.HIVに関連した疾患や死亡を減らすこと。
◆ これらのゴールを達成するための方法として、次のことを勧めています。
1.患者の治療アドヒアランスを最高にすること。
2.可能な限り"患者にやさしい"治療法を選ぶこと。
3.将来のオプションを考慮に入れた合理的な順序で薬剤を処方すること。
4.治療失敗の時には薬剤耐性検査を利用すること。

◆ 文書の入手先は次の通り。PDF版は100ページあります。

【PDF版】

http://www.hivatis.org/guidelines/adult/pdf/A&ajani.pdf

【HTML版】

http://www.hivatis.org/trtgdlns.html#AdultAdolescent/

◆ 日本語版(木村哲先生監訳)はエイズ治療薬研究班に掲載されています。PDF版で合計683KBあります。

http://www.iijnet.or.jp/aidsdrugmhw/text/1aids/e/1_e.htm

小児HIV感染症の抗HIV薬使用に関するガイドライン
原題:The Guidelines for the Use of Antiretroviral Agents in Pediatric HIV Infection
作成者:Working Group on Antiretroviral Therapy and Medical Management of HIV-Infected Children

◆ 前回の小児ガイドラインは1999年4月15日でした。今回は2000年1月7日版となっています。併用療法におけるアンプレナビル(キッセイ薬品、商品名プローゼ)の使用、そして小児における抗HIV薬耐性検査についての情報が含まれています。アメリカではアンプレナビルは液剤(15mg/mL)とカプセル(50mgと150mg)があります(日本は150mgカプセルだけ)。

◆ガイドラインはPDF形式とHTML形式で示されています。PDF版は61ページです。

【PDF版】

http://www.hivatis.org/guidelines/Pediatric/Text/ped_12.pdf

【HTML版】

http://www.hivatis.org/guidelines/Pediatric/Text/introduction.html?list

献血のHIV遺伝子検査実施

「エイズ検査希望者を吸い寄せる効果」心配
■ HIV抗体検査で合格していた献血の血液が輸血されて、HIVに感染したケースは3例確認されています。「日本赤十字社」は、感染を防ぐためにHIV、HBV(B型肝炎ウイルス)、HCV(C型肝炎ウイルス)の遺伝子増幅を同時に実施する新しい検査法を導入しました。遺伝子である核酸を増幅することから、NAT(Nucleic Acid Amplification Test)と呼んでいます。
■ 日赤では1999年7月から全国で献血された320万人分の血液について、このNATを用いて調べました。その結果、2000年7月までに関西地方で献血された二人の血液から、相次いでエイズウイルスが見つかったということです。HIVに感染すると、HIV抗体は平均20日前後で検出できるようになります。ところがNATでは、その1週間ぐらい前のウインドウ期間でも検出できるのです。今回見つかった2例も、従来の抗体検査ではすり抜けていたものです。
■ NATは北海道、東京、京都にある3ヶ所の日赤の施設で実施します。検体を急送し、夜を徹して検査を実施し、その結果を各地の血液センターに回答します。大量自動処理機器とコンピュータが活躍します。検査で合格にならないと出庫できません。特に採血から72時間の有効期間と定められている血小板製剤の需給が非常に厳しくなり、臨床側の計画的な使用が求められます。
■「保健所検査では抗体どまりだけど、献血では遺伝子検査もする」という話が、「遺伝子検査を受けるために献血する」「検査が陽性だったら告知される」というように伝えられると、かえって危険な供血者を吸い寄せてしまう磁石のような効果が生まれるのではないかと、関係者は心配しています。【TAKATA】

抗HIV薬の効果が減ってしまう健康補助食品

西洋オトギリ草を使っていませんか?
■ 患者さんは病院で処方される薬以外に、色々試しているものです。「他の薬を飲んでいませんか?」と質問しても、民間薬、健康食品は薬として意識されない可能性があります。
■ HIVプロテアーゼ阻害剤であるインジナビルの血中濃度が、西洋オトギリ草の服用により半分になるという論文がLANCETに掲載されました。この西洋オトギリ草、セントジョーンズワートは健康補助食品として販売されています。抗うつ、不眠、ダイエットのイライラ緩和などに効果がありますが、医薬品ではありません。
■ ファンケル\1500、オージービー\3800、日本ファミリー「ケア−ジョンズワート」\5800、マルマン\4800、リアルネット\5800、ミナト製薬「リー・ラックス」\4800、コネクト「スィートドリームズハーフサプリメント」\3800 コネクト「気分満点」\2800 ナチュラル・プロダクツ「セントジョーンズウォルト」\3000 皇漢薬品研究所「セイヨウオトギリエキス粒」\12000 マンナンフーズ「気持ちがラク」\4800

※医薬品使用上の注意、改訂情報
(平成12年5月10日指示分)

セイヨウオトギリソウの使用上の注意

http://www.pharmasys.gr.jp/kaitei/kaitei20000510.html#1
【医薬品名】 フェノバルビタール、フェノバルビタールナトリウム、フェニトイン、フェニトインナトリウム、フェニトイン・フェノバルビタール、フェニトイン・フェノバルビタール・安息香酸ナトリウムカフェイン、カルバマゼピン、ジギトキシン、ジゴキシン、メチルジゴキシン、アミノフィリン、コリンテオフィリン、テオフィリン、塩酸アミオダロン、硫酸キニジン、ジソピラミド、リン酸ジソピラミド、塩酸プロパフェノン、リドカイン(抗不整脈用注射剤)、ワルファリンカリウム、シクロスポリン、タクロリムス水和物(経口剤、注射剤)、アンプレナビル、硫酸インジナビルエタノール付加物、エファビレンツ、メシル酸サキナビル、メシル酸デラビルジン、ネビラピン、メシル酸ネルフィナビル、リトナビル
【措置内容】
以下のように使用上の注意を改めること。
[相互作用]の「併用注意」の項に「セイヨウオトギリソウ(St.John's Wort,セント・ジョーンズ・ワート)含有食品〔本剤の代謝が促進され血中濃度が低下するおそれがあるので、本剤投与時はセイヨウオトギリソウ含有食品を摂取しないよう注意すること。〕」を追記する。

HIV薬剤耐性検査をSRLが受注開始
■ 医療検査の受託会社エスアールエルはエイズウイルスの遺伝子を分析し、患者に最適なエイズ薬を割り出す検査を、2000年7月10日から医療機関向けに受注を開始しました。血液検体をアイルランドのバイオ企業ビルコ社(Virco)に送って解析します。採血はEDTAで5〜10mlです。詳細はSRLの担当者にお聞き下さい。
■ ビルコは、エイズウイルスの遺伝子配列と薬品の効果などについて約四万件のデータを持っており、新たな患者のエイズウイルスの遺伝子配列(genotype)と比較することで、その患者に最適な薬品を予測できます。また、患者のエイズウイルスをコピーして組み替えウイルスを作って細胞の中で増殖させ、これに薬品を作用させて、効果のある薬品を探す検査(phenotype)も行います。
■ 料金はgenotypeが55,000円で検査期間は約1カ月。phenotypeは95,000円で約2カ月かかるそうです。抗HIV薬は副作用がなければ数ヶ月単位で変更を検討するものです。検査会社は「無駄な投薬を続けるコストを考えれば、高い検査代とは言えない」と言っているようです。
■ 専門のサイトも現れました。
http://www.viral-resistance.com/
薬剤耐性HIV検査法を実施している会社のサイトは次の通りです。どの会社のどの検査が、どのように優れており、優勢になっていくかは、今後の評価に委ねることになるでしょう。

<遺伝子型(シーケンス法)と表現型>
1.Virco社
http://www.vircolab.com/services/
キット名:Antivirogram, Vircogen II
2.Virologic社
http://www.virologic.com/
キット名:PhenoSense HIV, GeneSeq HIV

<遺伝子型(点変異法)>
1.VisibleGenetics社
http://www.visgen.com/
キット名:Trugene

「AIDS Clinical Care」誌 BMS社が配布
■ ブリストル・マイヤーズスクイブ(BMS)社では2000年6月から、医療関係者を対象に「AIDS Clinical Care」誌(以下、ACC誌)を配布することになりました。ACC誌はN Engl J Med誌で有名なマサチューセッツ医学会出版部の発行で、編集長はボストン大学のDeborah Cotton教授です。
■ 巻頭のFeature Topicは、その時々に注目されている臨床的な話題のレビュー記事です。Antiretroviral Roundsというのは「この症例をどう治療するか」という擬似症例検討会のような記事です。Research Noteは4〜5編の抄読記事です。
■ 配布されるものは見開き2ページの日本語抄訳とコメントがつくことになりました。ご希望の方は、お近くのBMS社の情報担当者にご依頼になってみてください。BMS社のHPは、http://www.bms.co.jp です。[TAKATA]

AIDS Clinical Careのウェブ

http://www.accnewsletter.org/index.asp

ジドブジン治療を受けたHIV感染女性の

周産期感染の危険因子
原題:Risk Factors for Perinatal Transmission of Human Immunodeficiency Virus Type 1 in Women Treated with Zidovudine
著者:Lynne M. Mofensonら、PACTG Study 185 Team
出典:N Engl J Med 1999;341:385-93.
【背景】 ジドブジンを妊婦に使用するようになる前の時代には、ヒト免疫不全ウイルス(HIV-1)の周産期感染に関する母体、児、および産科的な危険因子について記載されている。しかしジドブジンを投与された母児の感染危険因子については詳しくわかっていない。
【方法】 われわれはジドブジン治療を受けた480人の妊婦とその新生児について、周産期の感染危険因子を知るため、母性、産科、新生児の特徴そしてウイルス学と免疫学的な検査値について調査を行った。対象者は周産期感染の予防に関する受動的な免疫学的防御に関する第三相試験の参加者である。
【結果】 単変量解析では、周産期感染の危険は次の因子と関連があった。すなわち基礎値における母体のCD4+数が低下していること、基礎値および出産時におけるHIV(p24)抗体値の低下、基礎値および出産時のHIV-1量の増加、基礎値および出産時のHIV-1 RNA量の増加、出産時における絨毛羊膜炎の存在であった。多変量解析では、基礎値におけるHIV-1 RNA量(感染に関するオッズ比は、1ログ増える毎に2.4であり、95%信頼限界は1.2-4.7; P=0.02)と、出産時のHIV RNA量(オッズ比3.4、95%信頼限界は1.7-6.8; P=0.001))が唯一の独立変数であった。基礎値のHIV RNA量が検出限界である500 c/mL以下であった84名の母親、そして出産時が検出限界となっていた107名の母親では、周産期感染はみられなかった。
【まとめ】 ジドブジン治療を受けた女性とその子供の中では、母体の血漿HIV RNA量が周産期感染の危険を知る最も良いマーカーであった。HIV RNA量を500 c/mL以下に減少させる抗ウイルス療法が周産期感染の危険性を最小にし、なおかつ母体の健康を改善する方法であると思われる。
<コメント>
1994年にHIV感染が判明した妊婦にAZTを投与することによりHIVの母子感染の確率を3分の1に減少させることがわかり、ガイドラインができました。AZTを妊婦に投与しても感染する例としない例があるのは、どういう要因によっているのかを明らかにしたのが本研究です。母体の血漿HIV RNA量を比較してみると、予想通りウイルス量が多い例で感染が起こりやすいことが明らかになりました。HIV感染が判明した妊婦に、HIV RNA量を検討せずに盲目的にAZTのみを投与し続けることは、よくないと思わせる成績です。[TAKATA]

血中のウイルス量が少ないほど

異性間感染の危険性が低下する
原題:Low Blood Levels of HIV Reduce Risk of Heterosexual Transmission
著者:Gregory Roa
出典:NIH NEWS March 29, 2000
ウェブ:www.niaid.nih.gov
参考:T Quinn et al.Viral load and heterosexual transmission of human immunodeficiency virus type 1. N Engl J Med 2000;342(13):921-29
◆ 血中のHIV量が少なければ少ないほど、異性のパートナーに性行為でウイルスを感染させる危険性が低下することが、米国国立衛生研究所(NIH)の研究資金で行われた多国籍共同研究で明らかになった。個人の血中ウイルス濃度と異性間の性行為によるHIV感染の危険性を調べた、最大規模の調査である。
◆ この研究はウガンダのRakai地方という田舎で実施された。研究ではHIV陽性の男性228人と、女性が陽性の187人の415カップルを前向きに調査した。RakaiプロジェクトはHIVの感染予防の男女のパートナー長期観察の対象であった。対象者には全員無料のコンドームが配られ、任意匿名のHIV検査とカウンセリングが受けられ、治療やHIV感染予防教育も受けられることになっていた。ただこのウガンダの田舎にあっては、抗HIV薬は入手できない。
◆ 研究チームは10ヶ月毎に30ヶ月までカップルを訪問し、同様に個別のセックスに関するインタビューを行った。研究者らは行動調査(例えばコンドームの使用、性的パートナーの人数、性行為の回数など)、一般の健康歴、エイズ関連の症状や徴候、割礼の有無など多様な因子について評価を行った。対象者はHIVや性感染症の評価のため、定期的な血液や尿の検査、そして女性の場合は自分で採取する膣の塗抹標本などを集積した。
◆ 陽性者は研究の途中であっても、個別に告知をされ、パートナーにその事実を伝えるよう励まされた。コンドームが配布され、HIV検査やカウンセリング、そして健康教育が提供されたのにも関わらず、以前は感染していなかった90人(22%)もの人がHIV陽性になってしまった。
◆ 受診の度に採血を行い、後でPCR法によるHIVのウイルス量を調べたところ、ウイルス量が高いことがHIVの感染率の高さに関係があることを見いだした。HIV感染のパートナーから新しい感染が起こるうちの80%は、元の陽性者の血中ウイルス量が1mLあたり10,000コピイ以上の場合であった。血中のウイルス量が1mLあたり1,500コピイ以下の場合には、相手に感染させた例は見られなかった。
◆ Quinn医師は、「ウイルス量が多いほど母子感染が起こりやすいと言う研究結果があるけど、私たちの結果も驚くほど一致しているのです。理論的には予防薬の投与が周産期感染の減少に役立ったように、HIVのウイルス量を減らせる抗HIV薬の投与が異性間性行為によるHIV感染に対しても有効である可能性があります。しかし、それは確認する研究がもっと必要です。」と述べた。
◆ ウイルス量とは別に他の重要なHIV感染危険因子についても調査を行った。全体としては、男性から女性への感染率と女性から男性への感染率が統計学的に差がないことを見いだした。ただし割礼を受けた男性ではHIV感染を受ける確率が有意に低いことがわかった。さらに15才から19才の間の若いカップルほど、HIV陽性か率が高いこともわかった。

WEB

コメント

吉崎班 HIV全国拠点病院実態調査報告書


編集:ケアーズ
発行:HIV 医療実態調査実行委員会、
吉崎班(主任研究者 吉崎和幸)
http://cares.here.ne.jp/default.htm
■ 内容:全国のHIV拠点病院の実態調査を、「1999年度のアンケート集計結果および考察」、「3年間のアンケート集計結果および考察」という構成で書かれています。カラーで140ページ、PDF版の大きさは、3,358KBです。相当大きいファイルですから覚悟してください。各ブロック拠点病院の評価が指標と共に記載されています。

エイズ予防情報ネット

http://api-net.jfap.or.jp/index.htm

■ エイズ予防財団が厚生省の委託により管理している情報サイトです。内容は、トピックス、相談・検査・治療情報、予防関連資料室、リンク集、厚生省情報、自治体情報、(財)エイズ予防財団、日本エイズストップ基金、お知らせ、ご意見・ご希望、となっています。

■ 厚生省情報は公的な文書類を入手しにくい人にとっては便利です。例えば、エイズ動向委員会報告、関連事業予算、関係法令などがあります。トピックスには、第13回国際エイズ会議に派遣された参加者の報告集もあります。

HIV疫学研究班(木原班)の報告書


http://www.acc.go.jp/2000ekigaku/eki_index.htm
■ 関わっているメンバーが多く多士済々です。ダイジェスト版です。もちろん別に書籍版があり、とても分厚くて重いものです。特に行動科学のところは、日本人の性行動をみつめた貴重な資料です。

厚生省科研成果データベース


http://webabst.iph.go.jp:8890/
■ 厚生科学研究班の主任研究者が書いた研究のまとめが、国立公衆衛生院の図書館が運営するウェブに掲載されています。残念ながら現在読めるのは平成10年度分です。どんなによい内容も非常に遅れて掲載されるので、早く成果を役立てるとか学術的な価値など重視されていないようです。

大鵬薬品


http://www.taiho.co.jp/myfemy/
■ 特定企業の名前をあげますが、大鵬薬品では女性用コンドーム「MyFemy」を発売しました。女性が積極的に主導権をもった使用という意味があるように思います。装着には練習が必要です。男性同士の性行為にも使用できるようです。

J-AIDS(ジェイエイズ)


http://www.egroups.co.jp/group/jaids
■ J-AIDSはメーリングリストです。医療者、ケア提供者、教育、行政、ボランティア、マスコミの方に加え、感染者も参加しています。参加者自身が記事を書きますので、情報は一番早いです。感想や意見交換も盛んです。未確認情報や間違った情報が載る可能性もありますが、取捨選択は自己責任になります。


最近のエイズ現況からエイズ検査の勧めまで

広島大学医学部附属病院
エイズ医療対策室長 高田 昇

医療者もマスコミ報道の影響を受ける
◆ 「どうですか、最近、エイズは落ち着いてきましたか?」という質問が、医療関係者からも聞かれます。「どんどん増えて困ったことです。」と答えますと、驚いた表情をされます。薬害エイズの問題が一段落したら、まるで日本のエイズは終結してしまったかのようです。私たちの意識がいかにマスコミ報道によって影響を受けているのか、はっきり示しています。実際には大変深刻な事態であるというよりも、良い面と悪い面が両方あり、将来については憂慮すべき所が大きいといったところです。日本の、そして中四国のエイズの現状をみながら、当面の課題を考えてみましょう。
増え続ける日本のエイズ
◆ 【図1】をご覧下さい。厚生省のエイズ動向委員会によりますと、1999年には289人のエイズ患者、491人のHIV感染者が報告されました。日本ではほぼ毎年、前年度よりはおよそ2割増しの新規患者が届けられています。折れ線グラフは献血時に発見されるHIV感染者で、10万人あたりで示されています。10年あまりで8倍に増え、1999年は1.02人となりました。献血者の年齢構成はは20代から40代が中心で、HIV感染者と同じです。

図1:HIV感染者・エイズ患者数の年次推移

厚生省平成11年エイズ発生動向年報を改変
◆ HIV陽性と診断された人はその後献血を繰り返すことはありませんから、この右肩上がりのグラフは、背景で日本のHIV感染者数が増えていることを示しています。欧米の先進国では、新規感染者は減少あるいは少なくとも横這いと言われていますので、日本は新規感染の発生を予防できていない数少ない先進国だということになります。
エイズは地域による差が大きい
◆ 東京都の人口は1180万人、大阪府は880万人、私たちの中四国地方は9県合わせて1200万人で、おおざっぱには同じ規模です。輸入血液製剤によるHIV感染者、いわゆる薬害エイズの患者を除きますと、1999年末までの日本のHIV感染者数は3624人で、東京都はそのうちの35.3%、大阪府は6.0%を占めますが、中四国地方9県は1.5%でしかありません。同様にエイズ患者1736人では、東京都31.5%、大阪府4.6%、中四国1.8%です。このようにエイズは今のところ大都会の病気です。
◆ 【図2】年次別にこの3つの地域の感染者・患者報告数をプロットしますと、東京都では右肩上がりの急速な伸びです。1999年だけで新規の患者・感染者数が315人になりました。一方大阪府は長く横這いでしたが、最近の3年間に右肩上がりとなり、1999年には63人です。ところが私たちの中四国は横這いで1999年は12人でした。中四国はこのままの状態が続くという保証はなく、いつか大阪のようになる可能性があります。感染力の弱いウイルスが、人から人へ広がってゆき、突然エイズで姿をあらわします。遅れて流行が始まっていく私たちは、先輩たちから学んでいかなければなりません。

図2:東京・大阪・中四国の年次別の新規患者・感染者数

厚生省平成11年エイズ発生動向年報を改変
血液製剤による感染者の発病・死亡数は激減
◆ 【図3】は東京都内の病院で発見されたHIV感染者の初診時の状態別にみた、生存曲線です(厚生省木原班)。治療があまりなかった昔から最近まで、そして多数の経験がある施設とそうでない施設、これらを合わせた783人のデータです。エイズ発病で診断された患者さんでは、1年で半分が死亡していますが、無症状でみつかった感染者では10年たっても6割が生存しています。

図3:初診時病期分類別生存曲線(東京 783人)

厚生省HIV疫学研究班(木原班)平成11年報告書を改変
◆ 厚生省研究班(山田班、福武班)の調査により、日本の輸入血液製剤による感染者、いわゆる薬害エイズの血友病患者の患者さん達は、感染が判明して定期的に経過観察が行われている貴重な人たちです。コンピュータのモデルで累計50%が感染した時期が1983年3月と計算されています。つまり感染してすでに平均17年を経過しています。エイズ発病者数と死亡者数が、1997年をピークとして激減しました。広大病院の最後の死亡例は1995年12月です。
◆ これは世界的に見ても1996年に始まった多剤併用療法の効果であることが明らかです。血友病の場合は出血の管理がありますので医療機関から離れることができません。個別には残念な経過をたどった患者さんもいますが、全体としては比較的早い時期に感染がみつかり、症状がでる前や軽いうちに治療が開始されたことが影響していると推測されます。
同性間性交渉の男性は早い段階で発見される
◆ 【表1】は1999年のエイズ発生動向の一部を改変したものです。男性とセックスをする男性をMSM(Men who have sex with men)と呼ぶようになりました。MSMではHIV感染者とエイズ発病者の比率が、201対55です。つまり早めに検査を受けている、発病していない状態で見つかっている比率が高いのです。これは業界雑誌・インターネットなどの広報や仲間うちの情報があるのかもしれません。

表1:1999年の国籍別の性的接触による感染者・患者届け出数

厚生省平成11年エイズ発生動向年報を改変
◆ 一方、女性とのセックスで感染した男性は、134対136です。発病した後にHIV感染がわかる例が半数を占めています。発病前には軽い症状や検査値異常もあったはずですが、患者も医師もまさかHIV感染とは思わなかった、ということなのです。
◆ 男性とのセックスで感染した女性では、73対28でMSMと同様、早めに見つかっているようです。しかし外国人の比率が高いのが特徴です。今後は男性とのセックスで感染した日本人女性が、エイズ発病で見つかるという場合が増えてきそうです。
大都市以外ではエイズ発病で発見される例が多い
◆ 毎週2人の新患がある、というような医療機関が東京には複数あります。医療機関側もHIV感染症、エイズに慣れてきました。ところが地方では、エイズ発病で発見という例が後を絶ちません。中には、体調を崩して中四国地方の郷里に帰り、そこで発病する"里帰り発病"が増えてきました。
◆ 例えばカリニ肺炎は免疫能が正常な人には起こりません。最初は市中に多い肺炎として治療を開始されますが、有効な薬が使われないために悪化してしまいます。ここで初めて、稀なタイプの肺炎、例えばカリニ肺炎にようやく思い至るのです。診断の遅れによって死亡率が高くなります。診断不明のまま亡くなる方もあるでしょう。
どんな病気でエイズ発病するか
◆ エイズ指標疾患の発生頻度については、国による差がかなりあります。日本では同じ傾向が続いています【図4】。つまり日本では前に述べたカリニ肺炎が圧倒的に多く、これにカンジダ食道炎、HIV消耗症候群、活動性結核の順となっています。これらの疾患を診断したらエイズを考える必要があります。

図4:1999年末までの日本のエイズ指標疾患の頻度

厚生省平成11年エイズ発生動向年報を改変       (合計1586人)
◆ これまであまり強調されてきませんでしたが、日本人のエイズの5番目、外国人では2番目が活動性結核であることです。実際、数は多くありませんが、私の所に相談があった中四国地方のエイズ患者の半数以上が結核でした。早期に亡くなった例もあります。エイズの結核は、空洞形成は少なく、肺炎や肺門リンパ節腫大そして菌血症の形が多く、進行が早いのが特徴です。
◆ 口腔カンジダや帯状疱疹があればHIVとは限りません。しかしエイズを発症した例の病歴では、その前に口腔カンジダや帯状疱疹を起こした例が非常に多くみられます。このような疾患を診たら、HIVを疑う必要があるのです。
これから大きくなるHIV感染妊婦の問題
◆ HIV感染者の妊娠事例は、研究班(木原班)により中四国6例を含む全国222例が集積されています。うち62例が1999年であり、妊婦検診にHIV抗体を実施する率が増えていることを意味しています。地域により実施率は30%未満から95%以上までと大きな差が見られます。妊婦がHIV陽性を知ることは自分自身のこと、夫のこと、子供のことと同時に3つの課題を抱えることになります。しかし母子感染予防の効果が大きいので、今後推進されるべきだと思われます。
滞日外国人のHIV感染は医療以前に大きな社会問題
◆ 滞日外国人は総人口の1%を占めていますが、各種サービスや法的な保護から洩れることが多く、言葉や文化の問題も加わって社会的な弱者となっています。ことに不法滞在のHIV感染者では医療費の負担の問題や滞在資格の問題があります。HIV検査で陽性とわかっても、医療費が払えない、本国に強制送還になる、帰国したら治療も受けられない、本国の家族に送金ができない例があります。留学生では故国の期待に背くことになり、多くの不利益が生じます。せめて日本国内に滞在する間は、日本人と同等のケアサービスが提供できればと思いますが、HIVだけに限らない大きな課題となっています。
今後は病院のHIV検査が増える
◆ 保健所検査は場所の問題、時間の問題などで受けにくいと思われており、年々件数が低下しています。無料匿名検査は保健所、有料記名(診療録作成)は医療機関でと検査希望者を広く受け入れることが大切で、検査目的の献血を減らす効果もあるでしょう。エイズ拠点病院では、率先して取り組むことが期待されています。
HIV抗体のことを復習しよう
◆ 血清中のHIV抗体は体内でHIVが増殖した証拠です。感染直後から検査で検出できるまでの期間はウインドウ期間といい、陰性の結果です。また新生児の場合は母親の移行抗体が検出され、体内での増殖ではありません。
◆ HIV抗体検査法には大きく、スクリーニング検査法と確認検査法に分けられます。スクリーニング検査は、HIV-1/2両方を検出します。@ELISA法、APA法、BIC法(免疫クロマトグラフィー法)などがあり、私たちの施設では通常PA法を使用しています。簡便、迅速、高感度で見逃しは非常に低く、偽陰性率0.0005%程度と言われます。モデル血清では感染後ほぼ21日前後で陽性になっています。最初は抗体価が低く、やがて急速に上昇します。キットの性格上で感度を上げるため特異性が低くなります。つまり本当は陰性なのに陽性の反応が出てしまう、いわゆる偽陽性率が0.03〜0.3%程度あります。
◆ 比較的新しい方法として、免疫クロマトグラフィー法(商品名ダイナスクリーン)が使われています。1検体ごとに試薬を開封でき、必要な器具は50μLの検体を分注できるピペットだけです。判定は15分後、感度は他法と同等なので、少ない検体の場合や緊急検査に適しています。偽陽性率が高いので、確認検査が必要です。
◆ 確認検査法には、@WB法(ウェスタンブロット法)、AIFA法(間接蛍光抗体法)、B確認用ELISA法がありますが、WB法が主流です。HIV-1/2を鑑別することも可能です。高価で手間や時間がかかり広大では大手の検査会社に外注しています。確定に至らず判定保留にとどまる検体もあります。
◆ 日本のように感染率が低い地域では、偽陽性の結果で困惑することがあります。例えば、陽性率0.03%の検査キットでは、1万人検査をすれば30人ひっかかり、確認検査でたった1人の真の陽性が確定されるということです。スクリーニング検査で陽性と出ても、慌てず、確認検査の結果を待つことが大切です。
◆ 核酸増幅法であるRT-PCR法を用いた遺伝子検査で、HIV RNAをみつけることができるようになり、確認検査法の一つとして使われています。ました。現在の方法は、1mL中50コピイの超高感度で検出可能です。HIV抗体が陽性になる21日よりも、さらに10日近く前の検体でも陽性になると言われています。特殊な装置と費用・日数が必要です。進行が遅い人で非常に低値であったり、治療によって検出できなくなったりします。また偽陽性も報告されていますので、この検査単独では感染者として確定することはできません。
誰にHIV抗体検査を勧めるか
◆ 感染率が低い日本では、全国民に検査を広げるのは労力とお金の無駄です。一方、医療提供者はHIV感染の危険性を伝え、検査の提供を申し出るべきです。検査を強く勧める対象の順を【表2】に示しました。つまり、HIV感染症/エイズに関連した症状があるもの、非特異的な徴候や所見があるものです。この他、無症状でも病歴などから感染の危険性があるものにも検査を勧めるべきです。

表2:HIV検査を勧める対象
■HIV感染症/エイズに関連した症状があるもの
・HIV急性感染症
・非特異的症状
 −慢性リンパ節腫大、血球減少症、高γグロブリン血症
・日和見感染症
 −帯状疱疹、口腔や食道のカンジダ症、不明の肺炎など
・日和見腫瘍
 −中枢神経リンパ腫、カポジ肉腫、若年子宮頚癌
■無症状のもの(感染の危険性があるもの)
・妊婦、HIV感染者のパートナー、HIV感染女性からの出生児、医療者の曝露事故、その他(検査希望者)
■強制的検査
・供血者、移植臓器提供者
◆ 私たちが診ている性行為によるHIV感染者では、相手が特定か不特定か、性産業の従事者かそうでないかはあまり関係がありません。むしろ、過去にHIV陰性であるという証明がない人と、防護のない性行為を行った人に検査を勧め、了解した人に検査をするというスタンスの方がよいようです。
医療提供者へのHIV検査トレーニングが必要
◆ 医療提供者が自信を持って検査希望者にHIV検査を提供できるようになるためには、以下のような具体的な目標をたて、教育と訓練を行う必要があります【表3】。

表3:HIV検査を勧め結果を告知できる
■具体的な目標
・HIV感染経路を説明できる
・HIV感染症の経過を説明できる
・HIV感染症の予防方法を説明できる
・抗体検査の方法と結果の意味づけができる
・検査に必要な手順・期間・経費を説明できる
・検査のメリットとデメリットを示すことができる
・クライエントが検査を受ける決意をするのを援助できる
・陽性の結果を告知できる
・陽性者をカウンセラーに紹介できる
・陽性者を専門医に紹介できる
■目標のための方略
・少人数の講習会の開催(講義、ロールプレイ、グループワーク実習)
・標準的なテキストや各種パンフレットの準備
・ICキットによるロールプレイ(陽性検体も使う)
■評価
・試験、自己評価、SP(Simulated patient)による評価
◆ 検査前に必要なことは、1)感染経路、2)感染症の経過概略、3)予防方法、4)検査法と結果の意味、5)検査の手順・期間・経費について説明できることです。さらに、6)本人にとってHIV検査を受ける意義の確認と、7)検査を受ける決意の援助を行います。検査結果を伝えるときには、8)陰性の場合は結果を伝えて告知後カウンセリングにつなげる、9)陽性の場合は結果を伝えて、10)心理カウンセラーに紹介し、11)専門医に紹介できることが大切です。
◆ これらの目標達成のためには医療提供者への教育訓練が必要です。具体的には、少人数の講習会の開催(講義、ロールプレイ、グループワーク実習)、標準的なテキストや各種パンフレット作成、IC法キット(陽性検体も使う)を使ったロールプレイなどが考えられます。教育効果の評価には、試験、自己評価、SP(Simulated patient)による評価が考えられるでしょう。
まとめ
◆ 中四国地方は日本の中で最もエイズの頻度が低い地域です。低下する、横這いで進むという要因はなく、今後増加が見込まれます。HIV感染の段階で早期に発見し、発病を防ぐことは、本人のQOLを改善する他、HIV拡散の予防に繋がることです。そのためには、医療者は積極的にHIVのことを伝える教育的な役割と、検査希望者に対して検査を提供することができなければなりません。専門医療機関との連携、心理・社会的支援に結びつけることが大切です。このためには、医療者の教育と訓練が重要な課題だと思います。このために、中四国エイズセンターとしての機能を向上させてゆくつもりです。

PI剤で骨粗鬆症のおそれ

一次出典:AIDS 2000;14:F63-F67.
二次出典:
Community AIDS Treatment Information Exchange (CATIE).
ウェブ:
http://www.catie.ca

■ 1999年のレトロウイルス会議で、プロテアーゼ阻害剤の使用と骨のミネラル濃度低下との間に関連があると初めて報告があった。それ以来、PI治療を受けた患者で骨の問題があるとの報告が数件見られている。医学雑誌"AIDS"の3月10日号の中でこれらの薬剤と骨密度低下との関連が、より強いものとして示された。
■ セントルイス市のワシントン大学医学部の研究者たちは、112人の男性を対象に研究を行った。60人の患者はプロテアーゼ阻害剤を含む抗HIV薬の併用療法を受けていた。他の35名はHIV陽性だがプロテアーゼ阻害剤は投与されておらず、17名はHIV陰性であった。
■ 研究者らは対象者の脊椎の下部と大腿骨の骨密度を一緒に測定した。骨密度の測定により、PI療法を受けていた患者の50%で骨粗鬆症などの骨疾患の徴候がみられた。実際の所PI療法を受けている患者は、プロテアーゼ阻害剤を飲んでいないHIV感染者に比べて、骨粗鬆症の危険性が2倍であった。骨粗鬆症とは骨がもろくなり骨折を起こしやすい状態である。普通は閉経後の女性に多く、老人の背が曲がるのはこのためである。
■ 骨の密度が低下するのは自然な老化現象の一つである。特にPI剤を飲んでいる人たちがどんどん中年になっているため、骨密度の低下が早まる危険性があるということは懸念されることである。

<コメント>
◆ PI剤って糖尿病を起こす、高脂血症を起こす、顔の皮下脂肪がそげる、お腹の周りに脂肪がつく、何だか成人病というか老化を進める、妙な薬だと言うことがわかってきていました。そして今回は骨粗鬆症ですって!
◆ 今回の報告が、ただちにプロテアーゼ阻害剤の有害性を証明したものではありませんし、これから飲み始めようとする人に強い警告を与えるべきかわかりません。十分な対照群をおいた無作為化試験で証明されたわけではないからです。しかし不安材料にはなりますし、PI剤先送りの慎重派をまた増やすことになったかもしれません。[TAKATA]

喫煙のHIV感染者は肺気腫になりやすい

原題:Increased Susceptibility to Pulmonary Emphysema Among HIV-Seropositive Smokers
著者:
Diaz, Philip T.; King, Mark A.; Pacht, Eric R.; et al.
出典:
Annals of Int Med (03/07/00) Vol. 132, P. 369;
ウェブ:
www.acponline.org/journals/annals

■ オハイオ州立大学では最近、エイズに関連した肺の合併症を発症しなかったHIV感染者の中では、肺気腫の危険性が高まるかどうかを評価する研究が行われた。HIVは陰性だが年齢や喫煙歴をマッチさせた44人の対照群と、144人のHIV感染者を比較した。以前の研究ではHIV感染者は他の人よりも肺の病気が早く進行するということ、また喫煙は肺気腫と関係が深いということが示唆されていたためである。高解像度の肺CT撮影を肺気腫診断に使用した。こうすると114人のHIV感染者では17人に肺気腫が見られたのに対し、対照群ではたった1人だけであった。この結果、HIV感染症は喫煙による肺の実質障害の過程を直接に悪化させると研究者らは推定した。この調査を行った時には、HIV感染者のほとんどは抗HIV療法を受けていなかったということを追加している。

<コメント>
◆ HIV感染者でタバコを吸う人がいます。私は「タバコを吸っていると肺の病気でエイズになりやすい。それがわかった上でたばこを吸う奴は自業自得だ!」と毒づいてきました。医者はこのような脅し文句をよく並べるものです。「センセ、そう言ってもタバコはやめられませんよ。」と反省しません。「もう、知らんぞ。」私は禁煙して1年半たちました。[TAKATA]

国立仙台病院

東北ブロックAIDS/HIV情報PAGE

http://www2.odn.ne.jp/~kokusen/aidspage/toppage.htm

HIV/AIDS 情報in北海道

北海道大学医学部附属病院

HIV総合医療整備委員会

http://info.med.hokudai.ac.jp/hiv/HivCoverPage.html

国立病院九州医療センター

九州地方のブロック拠点病院は
国立病院九州医療センターです。

http://www.coara.or.jp/~mako/qmed/aids/index.html

東京HIV診療ネットワーク

http://csws.tokyo-med.ac.jp/csws/tokyohivnet/


第14回日本エイズ学会学術集会・総会

会期:2000年11月28日(火)〜30日(木)

会場:京都テルサ(京都市南区)

ウェブ:http://www.lapjp.org/aidsgk14/
1)招待講演
招待講演1 座長:山本直樹
The human genes that limit AIDSStephen J. O'Brien (U.S.A.)
招待講演2 座長:永井美之
Studies of Lentivirus Induced Disease and Vaccine Development in Non-Human PrimatesMalcolm A. Martin (U.S.A.)
2)特別講演
特別講演(公開講座予定)瀬戸内寂聴 座長:島尾忠男
3)シンポジウム

S1) 公開予定 21世紀の日本とエイズ
座長:樽井正義・白阪琢磨
S2) エイズワクチン開発に向けて
座長:高橋秀実・山崎修道
S3) 薬剤耐性HIV-1変異株の出現:基礎から
座長:満屋裕明・馬場昌範
S4) 薬剤耐性-臨床から
座長:岩本愛吉・福武勝幸
4)特別企画
 特別教育セッション
 Improving the Management of HIV Diseases
I.講義 座長:岩本 愛吉
Progress in HIV-1 Pathogenesis and Treatment Daniel. KuritzkesUniversity of Colorado Health Science Center
II.Interactive Session
「症例から学ぶHIV感染症診療のコツ」Daniel Kuritzkes, 岩本愛吉
座長:青木 眞 
5)ワークショップ

W1) 感染増殖制御 座長:神奈木真理・高橋 秀実
W2) 病態解析(臨床) 座長:松下修三・滝口雅文
W3) 抗HIVサルベージ療法 座長:高田 昇・中村哲也
W4) 長期末発症者 座長:三間屋純一・岩本 愛吉
W5) コレセプター 座長:小柳 義夫
W6) 抗HIV療法における薬物血中濃度 座長:桑原 健・中村 哲也
W7) 服薬アドヒアランス〜治療・ケアはどう変わったか〜
  座長:堀 成美・日笠 聡
W8) 女性とエイズ 座長:池上千寿子・北山翔子
W9) HIV/AIDSカウンセリングにおける倫理的諸問題−性的パートナー告知を中心に−
  座長:古谷野淳子・児玉憲一
W10) ウイルス複製の分子機構 座長:岡本 尚
W11) アクセサリー遺伝子機能 座長:足立昭夫
W12) 母子感染防止のために 座長:戸谷良造・宮澤 豊
W13) HIV検査の普及 座長:市川誠一・今井光信
W14) 来日外国人とエイズ 座長:若井 晋・澤田貴志
6)サテライトシンポジウム
 HIV感染症「治療の手引き」
Clinical Management in AIDS - Metabolic Abnormality
「コミュニティ・ベースのHIV/STD感染予防への取り組み」
「性的リスク行為への社会的・心理的アプローチとエイズ予防啓発への活用」
「アメリカ/アフリカ - 南北AIDS事情:今何を?」
7)一般演題


Copy right (C) 2000, Chugoku-Shikoku Regional AIDS Center